(この記事は2013年10月29日時点の情報です)
山本修 先生(精神科)
食べては吐くを繰り返す「摂食障害」。やせ願望に潜む「拒食症」と「過食症」
宇品メンタルクリニック
【住所】広島市南区宇品西3-1-45-4(クリニックモール宇品内)
【TEL】 082-250-2230
優しい話し方で患者さんに丁寧に接する山本院長。その方の希望に合わせた治療を提案してくれる。
ファッション雑誌を彩るスレンダーなモデルさんを見ると、「私も痩せて、すらっとしたスタイルになりたい」と憧れますよね。社会的な風潮でも痩せている方が称賛され、ダイエットの言葉を耳にすることは多いですが、やせ願望の裏には「摂食障害」という病気の落とし穴が潜んでいるんですよ。
今回、摂食障害という病気についてお話頂いたのは、「宇品メンタルクリニック」の院長、山本修先生。拒食症や過食症が、単なる痩せ過ぎ、食べ過ぎというものではなく、その人が心に抱える問題と密接に関係していて、ダイエット志向が高くストレスに満ちた現代社会においては、10代、20代の女性の死因上位に挙げられる病気だと言います。
適切な治療で病気を克服できる人も多いので、山本先生のレポートをきっかけに「自分は大丈夫? 友人に思い当たる人はいない?」と、問いかけてみてくださいね。
摂食障害とはどのような病気ですか?
摂食障害とは心理的要因により、食行動に障害が生じる精神疾患の1つです。むしゃくしゃしたことがあった時に一気食いをしたり、むちゃ食いして気持ち悪くなって吐くという経験をしたことがある人は少なくないと思いますが、それが習慣的になると心や体に様々な悪影響が現れ、治療の対象となります。
摂食障害は、神経性無食欲症いわゆる「拒食症」と、神経性大食症いわゆる「過食症」に分類されます。どちらのタイプも体型や体重に対する強いこだわりがあり、心理的要因が密接に関わっているのが特徴です。
標準的な体重の85%以下の体重になるというのが、拒食症の一つの基準になりますが、拒食症の場合は体重減少が原因で生理が来ないというのが一つの目安となり、一方過食症でしたら、明らかに普通の食事の量とは違うのに、食べている自分をコントロールできないと感じている場合は、摂食障害を疑います。
体重増加を気にして食べた物を吐いてしまうんですね。
食べたことを帳消しにしたくて、吐いたり下剤を乱用するなど、異常な排出行動に出てしまいます。実際は吐いても帳消しにできるわけではないし、むしろ次の過食を予約してしまうことになって悪循環になるのですが、食べてしまった後の罪悪感と体重増加への強い恐怖から、吐くという行為を繰り返してしまいます。
「吐いたおかげで体重が何g減った」「一食抜いて体重が何g減った」と、それで体重コントロールができていると感じると、「食べたら吐く」が日常的な習慣となって摂食障害にはまってしまいます。
女性なら誰しも痩せたい願望はありますが・・・。
社会全体に痩せていることが称賛される風潮があり、最近では小学生の雑誌に「ダイエット特集」が掲載されるほど、やせ願望は若年化し、ごく一般的なものとなりました。
特に女性は細身のスタイルに憧れる方も多いと思いますが、「痩せていることが美しく、価値が高く、素晴らしい」といった考えがあまりにも強くなり過ぎると、自分の価値そのものを体重や体型だけで評価するようになってしまいます。学校での悩み、家族間での葛藤、人間関係、仕事の業績不調などのストレスがあり、それらをどうにかするために自分の存在価値を高めたい、周りの人に評価されたいという目標が「痩せる」ことで達成できるのだと信じ込んでしまい、体重計のメモリの増減が自分の価値を判定する成績表になってしまうのです。
しかも、体重は食事制限などで比較的簡単に何キロも減ることがあるため、勉強を頑張って成績を上げたり、仕事で業績を上げるよりも結果が出やすく、それが摂食障害に陥りやすい原因でもあります。
痩せることへの執着、そして太ることへの恐怖。これは摂食障害の患者さんにとって、痩せへの単なる憧れとは違い、その方が抱えている心の問題と深く関わる根強いものなんです。摂食障害が精神科や心療内科で扱う病気の中でも一番「精神科らしい病気」と言われるのは、やせ願望の成因に心理的要因が大きく関係しているからです。
明らかに痩せている方でも、やせ願望はあるのですか?
以前、拒食症に警鐘を鳴らす海外のCMで、拒食症の方の心理状態を的確に表現しているものがありました。すごく痩せているモデルさんが鏡に映った自分を見ているシーンなのですが、鏡にはなぜかぽっちゃりしているそのモデルさんが映し出されています。つまり、実際は痩せているのに、太っていると本人は思い込んでいて、「もっと痩せなきゃ、もっとダイエットしなきゃ」と考え、拒食症が進行していくことを表しています。
周りの人に痩せ過ぎだと指摘されて受診する方は初診の患者さんでは稀で、体にいろんな症状が出てきたことを心配したご家族の方が連れて来られるケースがほとんどです。ご本人は「こんなに食べるし、こんなに太っているし、私は拒食症ではありません」とおっしゃり、病識がないことが多いんですね。
また、ダイエットが一般化しているため周りの人も気付いてあげにくく、拒食症では吐く時に指を喉に入れるので歯が手の甲に当たり「吐きだこ」ができてしまうのですが、見た目は元気に見えても利き手に吐きだこができている方もおられます。発見しづらい病気であることも、拒食症の怖いところです。
どんな症状が現れて、初診に来られる患者さんが多いのでしょうか?
実際は過食症の方が何倍も多いんですが、受診される方の過半数は拒食症の治療です。女性の場合でしたら生理が止まってしまい、心配になって初診に来られる方が多いです。
体重減少に伴う拒食症の症状は、生理不順の他に体温や血圧の低下、不整脈、筋力の低下、骨粗鬆症など、全身に様々な悪影響が見られます。筋肉や脂肪がなくなり、これ以上痩せるところがないのに食事制限してしまうと、貧血や肝臓機能の低下が起こり、命に係わる事態になることも珍しくありません。実際に拒食症は、10代、20代の女性の死亡原因の中でも上位に挙げられる病気であり、深刻な問題なのです。
若い女性に多い病気なんですね。
摂食障害は10代、20代の女性に圧倒的に多い病気ですが、50代の方も中にはいらっしゃいます。今まで子育て中心の生活を送っていたのが子どもが巣立っていき、ふと「自分って何だろう」と振り返った時に、体重をコントロールすることが自分を取り戻すことだと感じ、摂食障害に向かってしまうこともあります。
今は中学生、高校生の男の子でもスタイルを気にする傾向が強いので、見た目がどう思われているかが気になり、男性でも女性と同じような心理的要因で拒食症になるケースが多いです。
性格や遺伝は影響しますか?
摂食障害になってしまう方は、子どもの頃からあまり手がかからず、親を困らすことのない典型的ないい子が多いんですね。実際は無理をしながら、親や周りの人の期待に応えるために頑張ってきた子が中学、高校になるにつれて成績や友人関係で上手くいかないことが出てくると、自己統制感、自己価値観の高揚を求めて体重コントロールに依存してしまうことがあります。
基本的に遺伝はないと考えられますが、親子でライフスタイルが似ていれば、考え方や性格の傾向的なものは似てきます。そういった意味で、親子関係に視点を当てたアプローチも必要です。
「拒食症」の治療はどのように行うのでしょうか?
病気に対する特効薬というものは残念ながらありません。食べた後に気持ちが落ち込んだり、食べること自体に強い不安がある場合は対処的に安定剤などを使うこともありますが、抜本的な治療薬はなく、カウンセリングを中心に体調や体重を改善していく、心と体の両方をケアしていくことになります。
カウンセリングでは、まず病気についてきちんと説明してご理解頂いたうえで、日常の食生活での注意や過食しそうになった時の対処法をアドバイスします。また、本人が抱えている悩みや不安、学校や職場でのストレス、家族との葛藤など、そういった過食や過度のやせ願望につながる心の問題にアプローチして、痩せることへの依存を軽減させていきます。
心の問題にアプローチすることが重要なのですね。
心療内科で扱う他の病気と同様、カウンセリングに重点を置いてゆっくり治していくことが基本となりますが、例えば水分しか摂れない極限状態だと通常の思考回路ではないのでカウンセリングが難しく、強制的に体重を増やすことから始めなければならないこともあります。そのような場合は、体力的な回復を待って思考能力が戻ってから、ライフスタイルの改善に向けたカウンセリングをスタートさせます。
症状が始まってそれほど時間が経っていなければ、早めの介入で比較的早く改善される方もいらっしゃいますが、何ヶ月も、何年も同じような食生活を繰り返していて、体にもかなりのダメージが出ている場合は短期間での治療では難しいことがあります。体重が極端に少なく血液検査で命に関わる異常が見つかった場合は、入院治療が必要になるケースも出てきますし、本人が嫌がっても毅然とした態度で治療に向き合わなければならないこともあります。
では、「過食症」の治療はどのように行うのでしょうか?
過食症と拒食症は全く反対の病気に思われるかもしれませんが、内面に抱えているものは共通していることが多いんです。拒食症から過食症になったり、過食症から拒食症になったりというのも珍しいことではなく、心理的な治療という意味では同じようにカウンセリングすることになります。
確かに過食症の方は肥満になりがちですので、適正な体重に戻していくことも必要です。ダイエットをさせるのではなく、規則正しい食事を習慣づけ、過食の後に吐いたり下剤をたくさん飲むという行為を止めていくことで、自然と適正な体重に近づいていきます。
院内はリラックスできる空間。気分の落ち込み、眠れない、不安、物忘れは気軽にご相談を。
治療を続ければ治るのでしょうか?
はい。摂食障害は治療を続けていけば、ほとんどの方が良くなります。
病気の改善について説明すると、「普通に食べられるようになる」とか「体重が戻る」とか、そういった表現になってしまうのですが、摂食障害を克服した患者さんにとって一番の変化は、いつもダイエットのことが頭から離れず、同年代の人と同じように普通に楽しく食事や間食をすることができなかったのができるようになり、体重に依存しないその人らしい生活を送れるようになることではないでしょうか。
最後に「広島ドクターズ」の読者にアドバイスをお願いします。
以前に比べると、心療内科やメンタルクリニックの敷居は低くなりましたが、まだまだイメージ的に心療内科は受診しづらいと感じている方は多いと思います。症状がどの程度のものか? ちゃんと治療した方がいいのか? 放っておいても良いのか?と不安に感じながらも、受診しようかどうしようかと迷われている方もいるのではないでしょうか。
大切なことは病気かどうかの診断ではなく、あることに生活の多くの部分が左右されてしまい、その方が本来したいことができない状態を改善していくことなんですね。「心療内科を受診する」といった決意はなしにして、「ちょっと相談してみる」「話を聞きに行く」つもりで足を運んで頂き、それがその方らしい生活を取り戻すきかっけにつながればと思います。
お薬に抵抗がある方などは、率直にご希望を伝えて頂ければ、どこの心療内科でもその方に合った治療を選択してくれますので、どうかお気軽にご相談下さい。
医師のプロフィール
山本修先生
●広島大学医学部卒業
●広島大学病院 精神神経科
●広島市立安佐市民病院 精神神経科
●国立病院機構呉医療センター 精神神経科
●ふたば病院(呉市)
●県立広島病院 精神神経科(副部長)
‐資格・所属学会‐
・精神保健指定医
・日本精神神経学会認定精神科専門医
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実は10代、20代の女性の死因上位に挙げられる摂食障害。
人の価値や美しさは、体型や体重で決まるものではありません。
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