(この記事は2018年6月21日時点の情報です)
城谷 良文 先生(内科)
大切な人を守るための禁煙、考えてみませんか?
城谷内科医院
【住所】広島県広島市安佐南区相田2-4-19
【TEL】 082-878-8426
専門の呼吸器疾患はもちろん、地域に根差して子どもから高齢者まで内科全般に対応
煙草が体に悪い事は百も承知。それでもやめられないのがニコチン依存の怖いところ。
それならひとまず自分の体の事はさておき、受動喫煙で周りの人や大切な家族の健康を害する事について考えてみませんか?
煙草の煙には、喫煙者が直接吸い込む「主流煙」、点火部から立ち上る「副流煙」、喫煙者が吸い込んだ後に吐き出す「呼出煙」がありますが、副流煙に含まれる有害物質の濃度は、喫煙者本人が吸い込む主流煙よりも高い事が知られています。
今回は、呼吸器内科がご専門の「城谷内科医院」城谷良文院長に、煙草をテーマにお話を伺いました。自分のためにはやめられないという方も、受動喫煙の影響を知る事で、ぜひ禁煙のきっかけにしていただき、大切な人のために始めた禁煙も、最終的には自分自身へのご褒美にも繋がる事、知っていただければと思います。
煙草が周りの人に与える害について教えてください
もうみんなご存じとは思いますが、煙草は非常に体に悪いものです。
1つは、ご自身が煙草を吸う事で体にいろんな毒物が入っていく、というのと、もう1つ、受動喫煙といいますが周りの人にも非常に影響が強いものです。
特に他人が吸っている煙草の煙(副流煙)には非常に毒性の強いものがたくさん入っているという事なので、まぁ自分はともかくとしても、できるだけ周りの人にそういう毒物、有害物質がかからないようにしてもらうのが大事になってきます。
受動喫煙には具体的にどのような害があるのでしょうか
他の人が吸っている煙草の煙を吸わされる状態になった場合、いろんな影響が出てきます。
すぐ現れる症状としては目や喉の痛み、あるいは咳が出たり心拍数が増えたりという状況になる方もおられます。
また、長期的に受動喫煙を続けている場合は心筋梗塞や狭心症になる危険性がかなり高くなると言われています。
また、妊婦やお腹の赤ちゃんにも強い影響があり、流産や早産、あるいは新生児の体重が減ってくるという報告がされています。
特に子どもの場合は、今から発達する組織をたくさん持っているので、特に煙草の影響が強いと言われています。
煙草の煙の影響が最も出やすいのは鼻、耳、喉など空気の通り道にあたる部分での炎症です。
受動喫煙において子どもの中耳炎、気管支炎、それから肺の感染症や肺機能の低下などが起こる事が知られています。また、頭の働きも低下してくる事が知られていますので、家庭内で受動喫煙をしている子どもは言語能力が低かったり注意力が散漫である(落ち着きがない)という傾向があります。親が喫煙者である場合はその子どもが煙草の煙に慣れて、将来喫煙者になる可能性も高いと言われています。
その他、受動喫煙によって起きる子どもの病気としては喘息、呼吸器の感染症、それから小児のがん、身体発育の低下などが言われています。
子どもから離れた場所での喫煙は受動喫煙を防げますか?
換気扇の下やベランダで吸うと大丈夫、と思っている方もよくおられますけれども、そういったところからも結構、風などによって副流煙がいっていますので、周りの人にはやはり影響がありますし、あるいは洗濯物や布団などに煙がついて影響が残る可能性が高いので、気を付けてください。
特にお母さんが煙草を吸う場合は子どもへの影響が強くなってきます。父親だけが吸っている場合よりも、母親だけが煙草を吸っている場合の方が、多くの煙草の煙を子どもが吸い込んでいるという事が分かっています。
公共の場での受動喫煙に関してはどうでしょう?
最近、オフィスやレストランで禁煙コーナーが設けられているところがたくさんありますけれども、分煙したからといって完全に煙草の影響が予防できるわけではありません。
分煙になっていても仕切りがない場合には、煙草の煙から非喫煙者を守る事はできませんし、喫煙ルームが設置されている場合も扉や壁などの隙間があれば煙が漏れ出してきたり、あるいは扉を開けた時に煙草の煙が一緒に外へ出てきます。このように、煙草の煙を完全には取り除けない事が報告されていますので、周りの人に害を与えずに煙草を吸う事は非常に難しいと思われます。受動喫煙は煙草の好き嫌いだけの問題ではなく、周りの方の命や健康に影響を及ぼす事が報告されている深刻な問題です。
それでも喫煙者がなくならないのはなぜでしょう
煙草を吸っている方は、なかなかやめられないという状況になっていますけれども、これはニコチン依存症という病気であります。
煙草に含まれるニコチンは非常に強い依存性を持つ薬です。そのため、特別な治療が必要な病気であるとされています。
煙草を吸うとニコチンが数秒で脳に達し、快楽を生じさせる物質(ドーパミン)が頭の中で放出されてきます。ドーパミンが放出されると喫煙者は快感を感じるようになり、そこでまたもう一度吸いたいという欲求ができます。その結果として、次の1本を吸って快感を得ても、さらにまた次の1本が欲しくなるという悪循環に陥ります。この状態がニコチン依存症、喫煙習慣といわれる状況になります。
ニコチンを体の中に入れるために、同時に一酸化炭素やタールなど、さらに多くの有害物質を一緒に取り込んでいます。こういった状況になると自分の意志の力だけではなかなか治せません。最近では禁煙治療が公的医療保険で受けられるようになりましたので、ニコチン依存症は病院で治す事ができる病気となっています。
医療機関での禁煙治療について教えてください
現在、公的医療保険で禁煙治療を受けるには一定の条件があり、それを医師が確認して治療を始める事になります。
要件を満たさない場合でも自己負担での自由診療で治療を受ける事ができます。
公的医療保険で禁煙治療を受けるための要件としては、
・ニコチン依存を診断するテストで高得点の方
・1日の喫煙本数×禁煙年数が200以上の方 (※35歳未満を除く)
・禁煙したいと自分で思っている方
・医師から受けた禁煙治療の説明文書に同意できる方
になります。
また、公的医療保険を使う禁煙治療は年に1回しかできません。
禁煙治療の標準的なスケジュールでは12週間にわたり5回の診療を受ける事になります。
禁煙のための薬には、飲むタイプ、貼るタイプ、噛むタイプの3種類があります。
飲むタイプは、チャンピックスというニコチンを含まない薬を1日2回飲んでもらう事になります。
・一定の要件を満たすと公的医療保険が適用される
・飲むだけなので簡単
・ニコチンを含まない
・ガムを噛めない方でも使用できる
・肌の弱い方でも使用できる
というのが長所になります。
貼るタイプは、ニコチンパッチと呼ばれる薬があります。通常は1日1回、上腕やお腹、背中などに貼りますが、皮膚がかぶれる事があります。
・一定の要件を満たすと公的医療保険が適用される
・ガムを噛まない人でも使える
というのが長所になります。
噛むタイプは、ニコチンガムがあります。ニコチンを含んだガムで、口の粘膜からニコチンが吸収されます。1回の使用量は1個で、噛み方に少しコツが要ります。
・煙草が吸いたくなった時に使用できる
・口の寂しさを紛らわせる事ができる
といった長所があります。
どのタイプも治療期間は同じくらいなのですか?
そうですね、基本的には約3ヶ月。ただ、貼り薬の場合、人によって少し前後する場合もありますが標準的な使用期間は8週間ですね。
アシンメトリーなデザインが目を引く外観。
2015年に新築移転し、内装も開放感と清潔感溢れる空間となっている
禁煙にコツはありますか?
例えば「軽い煙草にしたらいい」という方もおられますけど、軽い煙草もそれなりに有害物質が入っているので、軽い煙草にしてもあまり意味がないみたいです。
やっぱりきっちりやめてしまわない限りは煙草の影響は排除できないという状況ですね。
あと、「徐々に本数を減らしていってやめたい」という方も割と多いんですよね。
今20本吸っているのを10本にして、そこから1本ずつ減らしてゼロにしよう、という風にして煙草をやめる計画をたてる方がおられますが、ほぼ失敗します。
禁煙に成功している人のほとんどは、今まで40本吸っていようが60本吸っていようが「この日から自分はもう煙草をやめる」と自分で決めて、薬あるいはガムなどに助けてもらうけれども基本的には自分の意志でやめます。
割と女の人に多いのですが「あの人が薬で煙草をやめたから、私もこの薬を飲んでやめる」みたいな感じで、「薬を飲めば自動的に煙草を吸いたくなくなって、煙草をやめられる」という風に勘違いしている人もおられますけど、あくまでも薬は禁煙を補助する薬で、あくまでも本人が「禁煙するよ」というのをサポートする薬になりますので、やめるつもりがない人は、薬を飲んだからといってやめられる事はないです。
長年煙草を吸ってきた人でも禁煙する価値はありますか?
やっぱり20年吸っていた人と10年吸っていた人では当然煙草の影響は違います。
煙草の煙が肺に入ってくると肺がどんどんボロボロになっていくので、なるべく早い時期に禁煙すればそれを止められますし、特に若い人は細胞分裂も多いし代謝が活性化されているので、若いうちにやめた方がより効果的です。
ただ、やめた時点で煙草の害が入らなくなりますので、何歳でやめても、それなりの効果はあります。たとえば息切れが少し減ったとか、咳が少し減ったとか、痰が少し減ったとか、そういう呼吸器の症状は改善できると思いますね。
それでも踏ん切りがつかない人はどうすれば…
僕は、煙草を吸ったら大体どれくらいお金がかかるかという話をよくするのですが、1日20本(1箱)くらい吸っている人が一番多いので、それで計算すると、たとえば430円の煙草を1年365日で計算すると、大体年間15万円くらい、お金がかかっているんですよね。
で、それをたとえば20年続けると、300万円以上と、結構なお金を煙草につぎ込んでいるという事になりますね。
目の前の300万円と、20年煙草を吸う権利、どっちが欲しいですか?
たとえば、その300万円で海外旅行して車を買って…というのと、そういうのはナシで煙草を延々吸い続ける。どっちが自分にとっていいと思うか。普通は300万円の方が欲しくないですか?
また、公的医療保険を使った禁煙治療は大体3ヶ月で2万円くらいかかりますが、1日1箱吸う人が煙草にかけるお金もそれくらいかかっていると思うので、煙草を買う事を思えば値段的に治療費はトントンくらいです。
もしうまく禁煙できれば、その後、煙草のお金はかからなくなるので、そちらの方が安くつきますよね。
経済的にもメリットがあるという事ですね
あと最近、女性の間でアンチエイジングという言葉が聞かれる事があると思います。
煙草って基本的には毒で、体の組織のあちこちに入り込んで毒性を発揮しますので、お肌なども煙草を吸っている方と吸っていない方では変わってきます。
お肌の違いって何かというと、結局中身が違うからなんですよ。
たとえば高齢者は歳をとった顔をしていますが、なぜ歳をとった顔になっていくかというと、外側が歳をとっているんじゃなくて、中身が歳をとっているから、それが表に出て歳をとった顔になるわけじゃないですか。
煙草を吸う人もそれと同じように体の中が傷んでいくので、結果として表面、たとえばお化粧ノリが悪くなるというような変化は当然出てきますね。
若い女の方などは、できればお肌が綺麗でいたいっていう気持ち、ありませんか?
煙草をやめた方が、よりお肌のハリや化粧のノリなどもいいんじゃないかと思いますので、アンチエイジングにはまず禁煙、という事になりますね。
ありがとうございます。最後に、読者へメッセージをお願いします
病気は全部そうですが、やはり早期発見・早期治療が予後をよくします。
なので、調子が悪い時は早めに医療機関に相談に行ってもらうのと、特に中年以降の人は年1回くらいはちゃんと検診などを受けて、早めに病気を見つけて、早めに医療機関に行く事が、病気にかかっても早く治す方法になると思います。
あと、全般的な話になりますが、元気で長生きをしたかったら基本的には食事と運動、それから煙草やお酒などの生活習慣が一番のポイントになります。
いろいろ薬を飲んでも、食事と運動には及びません。
日常的にどんな食べ物を食べているのか、あるいは適度に体を動かしたりする事は、元気で長生きをする唯一の方法だと思っていますので、皆さんにはその辺を普段から気を付けて欲しいと思います。
医師のプロフィール
城谷 良文 先生
●昭和63年 広島大学医学部卒業
●昭和63年 厚生連広島総合病院
●平成 2年 広島大学医学部第2内科
●平成11年 豊平町立国保病院
●平成14年 広島市立舟入病院
●平成15年 太田川病院
●平成20年 城谷内科医院
‐所属学会・資格‐
・医学博士(平成9年取得:広島大学)
・日本内科学会認定医