(この記事は2016年8月17日時点の情報です)
下山 直登 先生(内科)
軽度認知障害(MCI)と認知症
下山記念クリニック
【住所】広島県東広島市西条町寺家7432-1
【TEL】 082-424-1121
「親身になってくれる」という患者さんの評判に納得。やさしい雰囲気の下山院長
2025年には、現在400万人を超える認知症患者さんの総数も700万人に達し、65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれています。
まだ認知症に対する根治薬がない一方で、アミロイドPETや髄液バイオマーカーの研究の進歩から、アルツハイマー型認知症の発症前診断も可能な時代になっています。
また、年に10%程度が認知症へ移行するといわれる軽度認知障害は、14〜44%程度が正常に戻るともいわれており、頭の体操や有酸素運動、食事の療法や高血圧・糖尿病などのリスク管理で予防できる事も分かってきています。
さて、歳を重ねると「人やモノの名前が思い出せない…」などという事がだんだん増えてきて、なんとなく不安に思われる方もおられるのではないでしょうか?
今回は、医療と介護の両面から地域に寄り添う「下山記念クリニック」下山直登院長に、軽度認知障害と認知症について、加齢による物忘れと認知症の違い、また、介護にあたられるご家族へのアドバイスなど、分かりやすく教えていただきました。
軽度認知障害(MCI)とはどのようなものでしょうか?
加齢に伴う生理的な物忘れのレベルを超えて記憶障害が進んでいる、認知症の一歩手前の状態です。何回も同じ事を聞くとか、頻回に置き忘れがあるなどの症状で、ご家族が心配してご家族を連れて来られるケースが多いです。
認知症とMCIとの違いは何ですか?
日常生活、社会生活に支障があるかどうかというところがポイントです。
周りの人にとっては同じ事を聞かれて迷惑だし、本人も「ない、ない」と探すけれども、探せばまぁ見つかる。何とか普通に生活が送る事ができて、日常生活、社会生活にほとんど支障がないレベルが軽度認知障害という事になります。まだ確立された治療方針がなく「まだ認知症じゃないんだからそのまま様子をみてもいいんじゃないか」という考え方もあるし「認知症に準じて早めに治療した方がいい」という考え方もあります。私どもでは軽度認知障害から認知症に進行するのを防いでくれるというデータを有するサプリメントをお勧めしています。そして、半年に1回定期的に認知機能をチェックし、もし認知症に移行してくる場合は抗認知症薬を併用します。
加齢による物忘れと認知症の違いは何ですか?
生理的ないわゆる加齢に伴う記憶障害と認知症に伴う病的な記憶障害の違いは、まず記憶を帯に例えて考えてみてください。朝から夜になって次の日の朝まで24時間の記憶が毎日繋がって帯を形作っています。この帯の中の記憶を、虫食いされたような形で忘れてしまうのは、加齢に伴う記憶障害でもみられます。例えば昨日の夜家族みんなで食事したとして、その時に食べたものの全体を思い出せない、あるいは一つだけ思い出せないというのは、いわゆる加齢に伴う物忘れでも説明がつきます。しかし、昨日の夜、家族みんなで食事をしたという出来事自体を忘れてしまうのは病的な物忘れです。すなわち、このように虫食いじゃなく、記憶の帯がスパッと切れてしまうような物忘れは認知症の可能性が高いという事です。また、加齢に伴う物忘れの場合はヒントを与えるとパッと思い出せたりするのですが、記憶の帯がスパッと切り取られている、すなわち出来事自体を忘れるタイプではヒントを与えてもまったく思い出せません。アルツハイマー型認知症の場合は結構初期からスパッと抜け落ちる物忘れがみられます。
「最近、人の名前が出てこない」などの物忘れの自覚の訴えをよく聞きますが、
認知症の場合、ご本人の自覚はあるのでしょうか?
軽度認知障害の場合は大体自覚がありますし、認知症が軽度の場合も結構自覚があります。しかし中等度になると自分が物を忘れている、記憶障害があるという自覚はなくなってきます。
したがって、物忘れに困って自分の判断で病院に来られる方の場合、ごく軽度か先ほどお話しした軽度認知障害あるいは加齢に伴う物忘れの場合が結構多いです。
認知症の検査はどのように行われますか?
アルツハイマー型認知症の検査として私がよくやるのは、まずいろんな指の形の真似をしてもらうんです。両手でピースをして「私の真似をしてください」と言うと、これは誰でもできるのですが、これを狐の形(親指、中指、薬指をくっつけて人差し指と小指を立てる)にすると、軽度の方は真似できますが、中等度になるとできなくなる事が増えてきます。視空間失認というのですが、アルツハイマー型認知症になると三次元の立体感覚が頭の中でうまく認識できないんです。
医療機関によって若干違いはあると思いますが、上記の検査や立方体を模写する検査、また長谷川式認知症評価スケールという30点満点の検査は普通の医療機関でも行われています。前頭葉の働きを専門にみる検査や記憶障害を精密に判定する検査は認知症専門の医療機関で行われています。
また、認知症の中には治る認知症もあって、例えば正常圧水頭症が原因の認知症は外科的な手術で治る事もありますから、それらをきちんと発見するためにCTやMRIの画像診断が必須です。また、認知症のうち約60%がアルツハイマー型認知症ですが、それ以外にもレビー小体型認知症や脳血管性認知症、前頭側頭型認知症があり(四大認知症)、それらのタイプを診断していくためにも画像の評価は重要になってきます。
認知症が分かったら、まずご家族はどう対応していけばよいでしょうか?
例えば「ごはんを食べたばかりなのに『食べてない』と何回も言われて非常に困るんです」というのはよくある話で、そのように言うのは認知症、記憶障害が進行しているという事です。ご本人は本当に忘れているわけですから「さっき食べたじゃない」などと返答すると「お前は嘘つきだ」「わしをいじめようとしとる」という風にとられてしまいます。ご本人は食べていないと信じきっているので、食べた直後であったとしても「今からすぐ準備しますから、ちょっと待ってね」と答えてあげてください。そうすると相手も「あぁ、わしの言う事ちゃんとわかってくれとんじゃな」という事で納得してくれます。たぶん30分位経ったらまた「食べてない、どうなっとんか」と言ってきます。ただし、前回のやりとりは忘れているので、同じ事を何回も繰り返せばいいのです。それを大体3〜4回繰り返したらもう言わなくなります。自分の言い分を分かってくれているとご本人が納得するのか、あるいは認知症の進行に伴ってそういうところに意識がいかなくなるのかわかりませんが、3か月くらい付き合ってあげるとこの症状も治まってきます。5年も10年も続くわけじゃないので、しばらく付き合ってあげてください。患者さんのご家族には「俳優になったつもりで、説得するのではなく、どう返事をしてあげたら相手が納得するのかを考えて対応してあげてください」という説明をさせていただいています。そうは言っても1日中俳優になり続けるのはしんどいので、介護者がリラックスする時間を持つために、介護サービスを有効に活用しましょう。そして、施設から帰って来たときにまた優しくお世話をしてあげてください。
どのような介護サービスを利用すればよいでしょうか?
主にはデイサービスとショートステイという施設になります。
デイサービスというのは、施設の人が迎えに来て、その施設でお昼ごはんを食べて夕方まで過ごしてまたお家に帰ってくるという6〜8時間の日帰りのサービスです。ショートステイは1泊の事もあれば長い時は10日位という事もありますけども、お泊りでのサービスです。いずれのサービスも利用には、要介護認定の申請が必要です。
西条駅から車で5分ほど。クリニックの上は介護付き有料老人ホームになっている
先生が認知症に力を入れられるようになったきっかけや想いを教えていただけますか?
私が卒業して間もない昭和60年代の老人病院というのは高齢者にとって悲惨な状況でした。当直のアルバイトなどでいろんな老人病院に行かせてもらう中で、本当に悲惨な病院をたくさんみてきて、とても自分はこんな所に入りたくないし自分の家族もそんな所に任せられないと感じていました。自分が入りたい施設、自分の家族を入居させたい施設を作りたいと思うようになったのですが、病院というのは規制に縛られていてそう簡単に作れるものではありません。私がクリニックを開設後しばらくしてから介護保険制度が始まり、自分が入りたい施設を介護の世界で実現しようと思い、まずデイサービスという日帰りのサービスを始めました。その後、終の棲家として活用できる認知症患者さんのためのグループホームという制度が新しくできて、いわゆるモデルケースの1つを見学に行かせてもらいました。私が過去に見てきた、ベッドの上に寝かされてオムツを変えてもらうだけ、スタッフも笑顔がない、ただ作業的な形で仕事をしているこれまでの老人施設のイメージとは全然違っていて、とても感動しました。グループホームは入居者9人が1つのユニットで、日中であれば3人の職員の計12人が1つのユニットで「疑似家族」として生活しています。認知症があっても自分でできる事は協力し、料理も職員と入居者が一緒に作ったり、利用者さんもスタッフも本当に楽しそうに生活されていました。こんな施設であれば、ぜひ自分も認知症になったら入居させてほしいと思いました。それがきっかけで、まずクリニックの隣にグループホームを運営するようになりました。元々私は認知症の専門医ではなかったので、最初は認知症の専門医に来てもらって医療面の対応をしてもらっていたのですが、私が一念発起、認知症を必死に勉強しグループホームに入居している方々の診療を受け持つようになりました。その後、ご縁があって「自分の地域でもグループホームを開設してもらえないか」という話をいろんな地域の方からいただいて、現在12か所でグループホームを運営させていただいています。この10月には戸坂に、12月には西条にグループホームが新しくオープンします。グループホームは入居者からも家族の方からも地域の方からも本当に喜んでいただけるので、運営していてやりがいがあります。
グループホームというのは認知症の方だけが入れる施設ですので、今度は、私がこれまで医療で関わらせていただいた患者さんから「認知症がなかったら私は先生の施設に入れないじゃないか」という声が出てきました。そこで、認知症じゃなくても入れる介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など、認知症でない高齢者の方が入居できる施設も何か所かで運営しています。
クリニックの敷地内にもいくつか施設がありますね。
敷地内では、下山記念クリニックの上の2階から5階が介護付き有料老人ホームです。ここは認知症じゃなくても入れる施設で、70人くらいの方が生活されています。その東側にもう1つ介護付き有料老人ホームがあって、そこでは50人くらいの方が生活されています。その隣のグループホームで18人の方が生活されていますが、クリニックの裏側にこの10月、新しくもう1棟グループホームがオープンします。そして、来年の4月には定員50人のサービス付き高齢者住宅を開設します。という事で、敷地内に200人以上の方が生活する、1つの小さなタウンになります。医療面では常勤医師5名と非常勤医師5名そして訪問看護ステーションのナースが連携して、介護の必要な高齢者の方々の医療的ケアを支えます。
施設に入りたい場合、ケアマネージャーさんにお願いすればいいのですか?
そうですね、下山記念クリニックがかかりつけ医であれば、担当の医師やナースに相談してもらってもいいし、担当のケアマネージャーさんに相談していただいてもいいです。また、下山記念クリニックには地域連携室というのがありますので、施設に興味がある場合はそちらに直接お電話いただければ、施設にもいろいろなタイプがありますので、見学していただいたのち、入居費用や条件などを説明させていただきます。見学だけでも歓迎ですので、ぜひお越しいただければと思います。
認知症患者さんのご家族へアドバイスやメッセージをお願いします。
患者さんが言った言葉を同じように繰り返して言ってあげるだけというのは、認知症患者さんの心の平穏のために非常に有効です。例えば幻視がある方が、誰もいないのに「そこの角に子供が3人立っとるじゃろうが」と言った時、普通の人だったら「なに変な事言いよるん。誰もおるわけないじゃん」と返してしまう。そうじゃなく「子供が3人そこに立っとるんが見えるんじゃね」と同じ内容を繰り返してあげるんです。そうする事によりご本人は「わしの事わかってくれとるんじゃ」と安心するわけです。繰り返すだけであれば幻視や妄想がエスカレートする事もありません。これは認知症患者さんだけでなく夫婦関係や親子関係でも使える会話のコツじゃないかと思うんです。夫婦間でもついつい言われたら言い返しちゃいますから、「分かっているけど、なかなかできない」という身内の方の気持ちもすごくわかるんです。でも少しずつでもできるように頑張りましょうね、という話をさせてもらっています。
また、ご家族がお困りでも、病院に来たがらない認知症患者さんもいらっしゃいます。ご家族だけで相談に来られて「どうやっても連れて来れんのですよ」という時は、私がお宅へ訪問して、診察させてもらう事も可能です。もちろんどうやってもうまくいかない方も何十人に一人はおられますが、一度顔を合わせてお話をさせていただいて仲良くなると「じゃあちょっとあんたの病院へ行こうか」という形になる事も期待できます。私の訪問だけじゃなく、他にも看護師やケアマネージャーなど認知症に詳しいスタッフがクリニックにはたくさん揃っており、様々な形でサポートさせていただける態勢が整っていますので、なんでもご相談いただけたらと思います。
認知症といってもいろんなタイプがあり、タイプによって治療方針、介護の方針も変わってきます。介護に困っている場合は専門の医師を受診しタイプ別のきちんとした診断を受けて、適切な治療と介護方針を説明してもらうのが良いでしょう。
医師のプロフィール
下山直登先生
●広島大学 医学部 卒業
●広島大学第二内科学教室に入局後 北九州総合病院、呉医師会病院に勤務
●医療法人好縁会 下山記念クリニック 理事長
‐資格・所属学会‐
・日本内科学会認定医
・日本アレルギー学会専門医
・認知症サポート医
・日本糖尿病協会 療養指導医
・日本認知症予防学会会員
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ある特定の状況や場所で非常に強い不安に襲われ、身体のいろいろな部分に様々な症状が現われたり、不安を避けようとする「回避行動」をとるようになったり、また安心を得るために無意味な行動を反復してしまうといったことが起こり、人によってはそれが原因で社会生活に支障をきたすこともあります。