(この記事は2016年5月10日時点の情報です)
藤本文彦 先生(歯科)
多種連携でしっかりサポート。口腔ケア・摂食嚥下リハビリテーションでQOL向上
藤本歯科クリニック
【住所】広島県呉市阿賀北7-13-12
【TEL】 0823-71-8213
「聴診器も訪問歯科診療には欠かせない」とおっしゃる藤本院長
皆さんは「口腔ケア」と聞いて、どのようなケアを思い浮かべますか?
お口の中を清潔に保つことや義歯などをきちんとメンテナンスすることは、虫歯や歯周病、口臭などの予防になりますが、「口腔ケア」で行われるのはそれだけではありません。歯肉・頬部のマッサージ、食事の介護、口腔乾燥予防、咀嚼・摂食・嚥下や発声・構音のトレーニングなど多岐にわたり、誤嚥性肺炎の予防、インフルエンザの罹患率低下、食欲増進、味覚の保持、上肢や手指のリハビリなど、実にたくさんの効果があるんです。そのことによってコミュニケーションの円滑化をはかることができたり、爽快感を得ることができたり、食事をおいしく食べられるようになったり、人が生きていく上で大事なQOLを大きく向上させます。
今回は呉市で多職種チームを組んでの訪問診療など、介護現場においても積極的な取り組みを行っておられる「藤本歯科クリニック」藤本文彦院長にお話をうかがいました。
先生は訪問診療に力を入れていらっしゃるそうですね。
当院は外来で一般歯科や矯正の診療をしていますが、訪問歯科診療も平成元年から28年間やっています。はじめは虫歯や歯周病の治療、入れ歯の修理、抜歯などが多かったのですが、少子高齢化に伴い介護保険ができてからは、施設で要介護認定を受けられている方や在宅の方のところへ歯科医師や歯科衛生士が出向いて口腔ケア、嚥下リハビリなど多種連携による食事の観察(ミールラウンド)に取り組んでいます。
現在、ご高齢者や寝たきりの方など、食事に介助が必要な方の死因第3位は誤嚥性肺炎です。
咀嚼に関しては、入れ歯が入っていないと食べにくい、スピードも落ちる、舌根が沈下する、睡眠時無呼吸で窒息しそうになる。舌の力がないと咀嚼期から咽頭期へのスピードがない。嚥下のキャップがきちんと閉まらないと、食道に行かず気管や肺に入る。肺に入って防御システムがうまくいかなかいと肺炎になる、というサイクルですよね。
まず、自分で飲み込みができず昼間は現場のスタッフさんに介助を受けながら食事をしている方が就寝時に唾液を誤嚥して肺炎になるケース。とろみがついた食事をされている方というのは嚥下の反射や咀嚼期から咽頭期にかけての機能がくすぶっていて水が飲めないので、唾液を誤嚥する危険があるわけです。あとは認知の問題もあります。たとえば自分の食べているものがイチゴなのかトマトなのか分からなかったり、「これをこうしてください」と言われても分からなかったり。認知に問題がある時点で誤嚥性肺炎になるリスクはぐんと上がりますよね。
胃ろうの方も口腔ケアが必要で、食べていないから汚れていないという話ではないんです。入れたものが逆流する事もあって、口腔内に汚れや細菌があると誤嚥性肺炎になりますし、トレーニングしないと廃用が進んで筋萎縮などが始まりますので、衛生士さん、看護師さんが衛生状態を含めて口腔がきちんと機能するよう管理していきます。
また、骨折やがんなどで入院されている方でも、けがや病気そのものではなく、寝ている時の誤嚥で肺炎になって亡くなられる方も非常に多いので、口の中は綺麗にしておかないといけないですよね。
命に関わる事もある大切な事なのですね。
食事のカロリーを上げると廃用が進みにくくその結果、誤嚥性肺炎になりにくいのですが、すぐにカロリーを上げればいいというものではありません。口から入ってきたものは消化を通って排泄までのサイクルがありますから、下の方の機能が弱っているのに上からどんどん入れたりできないんです。
胃ろうにすれば一度で必要なカロリーが入りますが、そういう事ではなく、口から食べる事というのは生きていく上での喜びでもありますから、生命体として口腔機能の維持や向上というのは非常に大事で「介護の6か条」の1つに入っているほどです。
厚労省もだんだんそこを評価するようになってきていて、訪問歯科での嚥下リハビリや口腔ケアについて指針を出していますから、これも歯科医師の仕事の一部だと私は把握しています。介護現場では利用者さんという言葉が使われているわけですから「利用者さん」という言葉を普通に使える歯科医の先生が増えてほしいと思いますが、それが歯科医業としてちゃんと成り立つかどうかという話もあって、なかなかうまくいっていません。
訪問診療の口腔ケアや嚥下リハビリテーションに至るまでの流れを教えてください。
はじめはすべて施設、病院、在宅からの依頼を受けます。介護保険でいうと「飲み込む状態が悪いから嚥下のリハビリをお願いします」という依頼がくる→計画を立てて実施してもらう→再評価、の流れですね。
たとえば急性期に口から食べられず胃ろうになられていた方が口から食べてみたいという場合、まず大病院で造影法(VF)と内視鏡(VE)などの嚥下評価テストを行ってもらい、医学的な評価をしていただきます。
施設などでは、利用者様がどういう形態の食事をどういうポジション(座位、車椅子など)でとるか、管理栄養士さんとお医者さんが栄養マネージメントを作っています。そしてご依頼があれば歯科医師と歯科衛生士、看護師、ケースによっては言語聴覚士も一緒に対応します。胃ろうだった方が普通のものを食べられるようになって、PEGを抜去した例もあります。
食べる事はできても溜め込みが多くて最後まで飲み切れない方、食べる事はできるけれどもカロリー的に全量食べられない方、いろんな状態の方がおられます。
そのような方の食事の形態を少し変えてあげる、たとえばおかゆの状態や刻みの状態から普通食に戻してあげる、というような事の評価をします。
うちのスタッフだけでなく、主治医のお医者さんや看護師さん、管理栄養士さん、介護主任さん、理学療法士さん、作業療法士さんなど多種連携で対応します。
食べる時のポジションや肺活量をアップするトレーニングなど全てが関係してきますから、耳鼻科の先生や病院歯科の先生、理学療法士さんや作業療法士さんなどと常に連絡を取り合っています。
介護職や病院の勤務形態は基本365日で忙しいですし、全身の管理をされていて口腔内の管理までなかなかできませんから、週1回でも我々が行く事によって虫歯の状態や粘膜の状態、唾液がちゃんと出ているかどうか、ものが喋れるかどうか、バイタルチェックして全体的な評価をしていきます。
訪問できるエリアは決まっているのですか?
日本全国、病院や医院の半径16km以内と法的に決まっています。「摂食嚥下関連医療資源マップ」で検索されると、嚥下に取り組んでいる医療機関が載っています。広島県では現在29ありますが、開業医さんで取り組んでいるところはそこまで多くないですね。
隣の町に行けないなどで悔しい思いもして、広島に分院を出す事も考えていたのですが、他に対応されている先生方もいらっしゃいますし、今はここをもっと充実させて頑張りたいと思っています。
リラックスして受診できるよう配慮された、小児用の診察室
先生のクリニックには多種多様なスタッフさんがいらっしゃいますね。
約40人のスタッフがいますが、これでも足りません。飲み込みの話に限らず、脳梗塞や脳血管障害の後遺症で「食べられるけど発音ができない」「らりるれろが言えない」という方もいらっしゃるので、そういう方については発語トレーニングできる専門の方(言語聴覚士)がどうしてもそばに欲しくなります。なかなか言語聴覚士さんはいらっしゃいませんから、もっと多くの言語聴覚士さんに来ていただきたいと思いますね。
また、看護師さんや衛生士さんもどんどんレベルアップしないといけませんから、いろんな先生を講師に呼んで嚥下の話や口腔ケア勉強会もしょっちゅう行っています。機能をアップするトレーニングだけではなく、胃ろうなどの栄養食や嚥下食などを作っている会社とのクッキング教室など、食べやすい形態にする嚥下食などの勉強もしています。
また、包括支援センターなどで月に1回くらい口腔ケアの勉強会なども長い間していますし、要支援の段階の方が要介護までいかないようにするために行政がやっている教室などで、衛生士さんとブラッシングの仕方などを指導したりしています。
食事は1日3食、1週間に21回あるわけですから、本当はご自分やご家族の方など毎日介護されている方が日々の口腔ケアをされて、我々はそれを指導するというのがベストだと思います。患者さんが疑問をもたれている事に答えてあげたいし、そういう教育の場がないのはおかしいと思っているので、今までそのような現場を多くみてきた自分がやっているわけですが、自分自身も東京や九州などのいろんな先生や、国の動きが見えるような人にいろんな事を教えてもらって勉強しています。
そのような中で、どんな事をお感じになられていますか?
東京や大阪であれば嚥下の訓練も口腔ケアもきちんとできるのに、田舎の方ではできていないなど、介護保険や医療保険を国にお預けになっているにもかかわらず地域によってサービスが受けられない方がいらっしゃいますよね。離島の方へ行けば先生がいない、衛生士がいない。
私は利用者様や患者様からのご依頼を受けて、先生や看護師、歯科衛生士を集めるのに困っているほどですが、それでもすべての方がサービスを受けられているわけではありません。受けられる権利があるのに受けていないというような事や、Aという施設では口腔ケアを一生懸命やっていて肺炎が少ないのにBという施設は口腔ケアが不十分で誤嚥性肺炎の発症率が高い、というような事。
また、急性期には大病院の病棟で歯科衛生士がビニールエプロンとゴーグルとマスクをつけて徹底的な口腔ケアをしていても、回復期で在宅に帰ってきた時にケアマネージャーさんが口腔ケアをプランに入れてくれなかったら専門家は行けませんよね。
また、特別養護老人ホームには要介護3以上しか入れませんから、状態のまあまあ良い方は入れない。その次の介護老人保健施設には入れるけれども自己負担金が高くなってしまうのでいろんな経済事情もある。とにかくみんながみんなサービスを受けているわけではありません。となれば、やっぱりそこは一生懸命やってほしいと思いますし、一部負担金や訪問診療料もかかりますが、大事な事ですよね。
他に先生が大事にされている事はありますか?
当院は長年やっているから行けるのであって、歯科医師が施設に行こうと思っても結局はネットワークがないとなかなか行けません。お医者さんや管理栄養士さん、施設長さんや相談員さん、ソーシャルワーカーさん、病院歯科であったり総師長であったり、たくさんのネットワークがありますが、今からの地域包括ケアは、現場でどう対応していくかそれぞれの専門家が同じ目線に合わせてやっていく事が大事だと思います。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会という学術団体があって、嚥下の勉強をしたい人はそこに集まっているのですが、摂食嚥下認定の看護師さんなどと知り合う事もありますので、そういう方に教えていただいたりもします。やはり看護師さんというのは全人的な看護をされているので。私などは歯においてはスペシャリストかもしれませんが、それって部分的な事ですからね。
一般の方からの問い合わせも多いのではないですか?
九州や岡山などいろんな所から「食べさせてあげたいんだけど何かアドバイスありませんか」とか、ここまで来られたいとおっしゃる方もおられます。県外などであれば「そんな事言わずに大学病院で評価してもらってください」という事になりますが、そのエリアで対応されている先生がいらっしゃったら紹介したり、きちんとしたところできちんとトレーニングを受けるようアドバイスする事はできますよね。
「父が誤嚥して亡くなってもいいから、最後にもう1回口から食べさせてあげたいんです」なんて言われたら、熱いものがグッとこみ上げてきますよ。法的にはお医者さんだけでなく歯科医師も摂食嚥下トレーニングの指示は出せますから、主治医の先生に言えなくて私に相談されるわけですが、セカンドオピニオンじゃないですけど今はご本人やご家族の方から直接アプローチいただく時代です。
その分こちらも詳しく勉強しないといけません。自分がやってきた事の延長ですから。
歯の事でいえば、入れ歯が悪いだけで嚥下の状態が悪くなる事もあるし、入れ歯を直して咀嚼が良くなっただけでぐんぐん良くなる場合もあります。
うちには言語聴覚士さんや看護師さんもいますし耳鼻科の先生にも知り合いがいますから、嚥下の事でなにかあったら、大学病院や県病院など大きなところへ行く前にまずどんな事が民間レベルでできるのか、気軽にご相談いただければと思います。
これからもそれぞれの専門家との連携を互いにしっかりとって、機能の評価やトレーニングのみならず虫歯や舌癌、歯肉癌などの早期発見、早期治療などにも活かしていく、そんなスタンスでやっていきたいと思っています。
口腔ケア、嚥下リハビリテーションについて詳しくはホームページをご覧ください。
医師のプロフィール
藤本文彦先生
●城西歯科大学(現・明海大学)歯学部 卒業
●医療法人社団博和会 平田歯科医院 勤務
●鯉城歯科医院 分院長
●医療法人健真会 藤本歯科クリニック 理事長・院長
●元呉市歯科医師会 公衆衛生担当理事
‐資格・所属学会‐
・厚労省臨床研修医指導医認定
・厚生労働省からかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所として認定
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会委員
・広島大学臨床研修医療機関認定
・当院は、IDI(歯科医療情報推進機構)の審査にて一定以上のレベルであると認定された歯科医療機関です。
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