(この記事は2018年5月17日時点の情報です)
溝手 秀秋 先生(眼科)
物が歪んで見えるのは、様々な病気のサイン。放置は禁物です!
みぞて眼科
【住所】広島県安芸郡海田町西浜4-22-4 サンフラワークリニックビル2F
【TEL】 082-821-2601
昨年は800件近い白内障手術を手掛けられた溝手院長。
手術実績は院内の掲示やクリニックのホームページで見ることができる。
なんだか物が歪んで見えるような気が…。という方、いらっしゃいませんか?
物が歪んで見える「変視症」は様々な病気の症状の一つで、自分で気付く事のできる重要なサインでもありますが、片方の目に症状が起きていても、もう一方の目がそれを補い、病気が進行するまで気付かない事も多いようです。
今回は、海田町「みぞて眼科」の溝手秀秋院長に、変視症の症状があらわれる代表的な病気についてお聞きしました。
その多くは目の奥にある網膜や、重要な細胞が集中する黄斑といった、物を見るために大切な部位の異常が原因なので、手術で再びよく見えるようになる白内障や眼鏡で補う事のできる近視や乱視、老眼などとは異なり、病気によっては進行してしまうと日常生活に支障をきたすほどの視覚障害と付き合っていかざるを得ない場合もあります。
「おかしいな」と思ったら決して放置せず、すぐに検査を受けてみましょう。
物が歪んで見える時というのは、どこに問題が起きているのでしょうか?
まずは目の構造をご理解いただきたいのですが、まず角膜、虹彩、瞳孔とあって、角膜と虹彩の間に前房、虹彩と水晶体の間に後房という空間があり、いずれも房水と呼ばれる水で満たされています。これが眼圧(目の圧力)を一定に保っていて、眼圧が高くなると緑内障になりやすいです。そして水晶体、これが濁ると白内障になり、かすんで見えたり見えにくくなったりします。そして、神経の膜、網膜があります。目で見えている映像は網膜から視神経乳頭を通して脳へ送られます。網膜の中心部を黄斑部と言いますが、ここが障害されると真ん中が歪んで見える、中心が見えにくくなります。
物が歪んで見える時、どのような病気が考えられますか?
いろいろな病気がありますが、代表的な病気として
加齢黄斑変性があります。
これは、目が見えにくくなる原因の第4番目ですが(1位:緑内障、2位:糖尿病網膜症、3位:網膜色素変性症)、70〜90代くらいの高齢者で非常に増えている病気です。病名に加齢と付いているくらいですから高齢化が進むほど増えてくるんですね。
煙草を吸う人に多いというデータもありますが最大のリスクファクターは加齢で、年齢的な変化によって網膜の中心(黄斑部)が弱ってきます。
網膜の外側には脈絡膜というものがあり、その外側には眼球の壁である強膜というものがあって、ここは完全に三層構造となっています。
脈絡膜は血流の豊富な組織で、ここから網膜に栄養を与えているのですが、脈絡膜から新生血管という脆い血管ができると、そこから出血したり網膜の下に血液の成分が溜まったりして、網膜の中心がだんだん傷んでくるんです。
網膜の中心は一番光が当たって、一番エネルギー活動が活発なところで、物を見る中心の部分になるので、そういう変化が起きやすいんですね。
そして、見たい所が見えなかったり、暗く見えたり、物が歪んで見えたりするのですが、放置すると最終的には中心部が機能しなくなって、ほとんど見えなくなります。
対策として、特殊なPDT(光線力学的療法)というレーザーもありますが、今は抗VEGF薬(VEGF阻害薬)の注射が主流です。新生血管を完全になくす事はできないので、対症療法という事で繰り返し打たないと効果はありません。
抗VEGFの注射をすると新生血管の活動性が一時的に低下して、血液の成分が漏れ出るのを抑える効果があるので症状が一時的に改善しますが、その効果が消えてくるとまた新生血管の活動性が出てきて、また網膜の中心が腫れてくるので定期的に注射します。
中には何回か注射すると症状が治まる人もおられますが、多くの人は繰り返して注射をしていかないと症状がどんどん悪くなって視力が維持できなくなります。
注射の頻度はどれくらいですか?
大体多くの人は3ヶ月に1回くらいですね。最初は1ヶ月に1回注射を打って定期的に検査しますが、新生血管の活動性は3ヶ月くらいで出てきますから、その頃にまた注射をする事が多いですが、もちろん個人差はあります。
いったん治まった方でも数年後に症状が再発して悪くなる場合もありますので、定期的に検査して経過を見ていかないといけません。
その他にはどんな病気がありますか?
その次は
糖尿病黄斑浮腫ですね。
糖尿病で血糖値が高くなると、血の流れが悪くなって網膜の毛細血管に血管の瘤(毛細血管瘤)が出てきます。それが負担となって網膜の中心部、黄斑部に出血してくる、あるいは血液の成分が漏れ出てくると網膜の中心部が腫れてくるんですね。すると加齢黄斑変性と同じように網膜の中心部の機能が弱りますので、歪んで見えたり、中心部が薄暗く見える、という症状が出ます。
対策としてはこちらも抗VEGF薬の注射が治療の主流ですが、あとはレーザーで傷んだ血液の成分が漏れ出てくる毛細血管瘤や血流がきかなくなった網膜などを焼く事で血液の成分が漏れ出ないようにするという、その二本立てですね。
血糖のコントロールが悪いと全身的な三大合併症(腎症、網膜症、神経障害)あるいは脳梗塞や心筋梗塞など、大きな血管もやられたりしますが、糖尿病でも血糖のコントロールが良ければ網膜症は出てこないので、まぁ予防はできます。
その次に多いのは
網膜静脈閉塞症という病気で、こちらは高血圧を持っている人に多いです。高血圧は全身の血管に動脈硬化が起きますから、動脈硬化によって静脈が圧迫されて血管が詰まってしまうと、脳だったら脳出血、目だったら静脈閉塞症という事になります。
眼底に静脈と動脈が交差するところがあるのですが、血圧が高くなると動脈が硬くなって静脈を圧迫するため静脈の血の流れが悪くなって、動脈から血が行っても静脈で帰っていかなくなるので、網膜に出血を起こすんですね。全体的にたくさん出血する場合もありますし、分枝閉塞症といって部分的に出血する場合もありますが、どちらもやっぱり物が歪んで見えたり中心が薄暗く見えたりします。
こちらの場合も抗VEGF薬の注射で腫れを引かせたり、レーザーで傷んだ血管を焼いたりという治療になります。あとは食事や運動に気を付けて血圧をコントロールして動脈硬化を防ぐ事が大切ですね。
変視症が起きる病気の原因は血流や血管に関する異常、という感じですか
その他にも形態的、構造的な異常が起きる
黄斑円孔、
黄斑前膜といったものがあります。
黄斑円孔の場合は網膜の中心部(黄斑部)に穴があいてしまう、亀裂ができてしまいます。
硝子体は年齢的な変化によって収縮するのですが、網膜の中心に引っ張る力によって穴ができてしまい、中心部に亀裂ができるんですね。
すると、中心部が見えないとか中心部が歪んで見えるという症状が出ます。
こちらの場合は、じわじわくるというより、ある日急に見えにくくなります。
視力としては大体0.1くらいになる事が多く、それ以上病状が進行する事はありませんが、一旦穴ができてしまうと自然に治る事はありません。
こちらの治療は、注射ではなく硝子体手術という手術を行います。
硝子体が引っ張っている部分を綺麗に取って、網膜の最も内側にあたる内境界膜という薄い膜をはがして、目の中にガスを入れます。そこから1週間〜10日くらい下向き姿勢していてもらうとだんだん穴が閉じて、ある程度元の視力に近い状態になります。
このように穴があく場合はガスを入れて網膜の中心を抑えるのですが、穴があくのではなく網膜の中心部が変形してくるのが黄斑前膜です。
これも硝子体の方が原因です。硝子体は年齢と共に液体に変わって縮む傾向があり、ある時網膜からパッと離れるのですが、その時に硝子体の一部の組織が網膜の表面に残ってしまい、その残った硝子体の一部の組織が収縮して網膜の中心が変形してくるので、物が歪んで見えます。
こちらの場合も物理的な変化なので、基本的には手術によってこの膜を取る事で症状が改善します。
例えば術前の視力が0.7くらいになっていたら、手術すると1.0くらいに戻ります。いずれも完全に元の状態に戻るわけではないですが、日常生活に困らないような視力には戻ります。
加齢によるものが割と多い印象ですね
あとは
中心性漿液性脈絡網膜症も比較的多い病気ですが、こちらの病気は若い方に多く、20〜50代の働き盛りの、特に男性が多いです。
なぜ起きるのかはっきりした原因は分かっていませんが、仕事が忙しくストレスが溜まっている人に多いと言われています。この病気は体質がかなり関係していて、ストレスが溜まっても平気な人の方がほとんどですが、こういう病気を起こす事もあります。
網膜の中心部には脈絡膜というものと網膜色素上皮というものがあって網膜があるのですが、色素上皮の部分に異常が起きる事によって脈絡膜の血液の成分(透明な血漿成分)が網膜の下に溜まってしまい、やはり網膜の中心がポコッと膨れた状態になります。
症状としても、やはり歪んで見えたり、物が小さく見えたり、薄暗く見えたり、中心部が見えにくかったり、今まで挙げた病気と同じような症状になりますね。
この病気に関しては主にレーザーの治療を行います。傷んだ網膜色素上皮の部分をレーザーで焼くと血液の成分が漏れ出なくなって、網膜に溜まった血液の成分も時間と共に吸収されて、症状が改善して元の状態に戻ります。
待合室には目の病気などに関する多くの掲示があり、患者に知識や理解を促す工夫がされている。
変視症というのは徐々に歪んでくるのですか?それともある日突然歪んで見えるようになるのですか?
黄斑円孔の場合、ある日突然穴があくわけですが、それまで徐々に網膜の中心が変形してきますから、最初は少し中心部が薄暗いかな〜というような違和感や、見え方がおかしいな、という感じはあると思います。
そして穴があくと急に歪みが強くなったり中心が見えにくくなるんですね。
加齢黄斑変性にしても、じわじわと新生血管が大きくなって血液の成分がじわじわ漏れる事もありますし、中心部に急にボコッと大量に出血を起こす事もありますので、病状は人によってそれぞれで、急激に見えにくくなる場合もありますし、じわじわとくる場合もあります。
加齢黄斑変性のリスクファクターは主に加齢という事ですが、誰もがなるわけではないんですか?
誰もがなるわけではないですね。体質的、遺伝子的な要因もあると言われていますが、まだはっきりした遺伝子は同定されていないと思います。
加齢黄斑変性は糖尿病や高血圧のように予防できないという事ですか?
予防に有効なサプリメントがありますので、眼科医に相談されることをおすすめします。
同じ症状のあらわれるこれらの病気を、どう見分けるのですか?
歪みがあるかどうか、視力が落ちていないかどうかの検査もしますが、主に画像診断ですね。
眼底写真を撮れば異常があるかどうか分かりますし、あとはOCT画像という断面図の写真(眼底三次元画像解析による網膜の断層写真)、蛍光眼底造影検査。画像的にこの3つは重要な検査です。
片方だけに症状がある場合、両目で見ていると違和感なく気付かなかったりしますか?
そうですね。片方が見えなくても片方がよく見えていれば、気付かないまま、かなり病状が進行してしまう人もおられますし、少しでも片方が変だったらすぐに気付いて受診される人もおられます。
これらの病気、失明する事はあるのですか?
身体障害の原因疾患として1番目の緑内障は、身体障害の中ではもうほとんど見えなくなるような状態が多いですが、2番目の糖尿病網膜症や4番目の加齢黄斑変性も両方ともやられる方は結構多いですから、視力が0.1以下になって日常生活もほとんど不便でできなくなって、という事はありますね。
緑内障などは神経全体がやられるので視野が狭くなり、真っ暗でまったく見えなくなりますが、加齢黄斑変性の場合は真ん中だけ、見たいところだけ見えないものの、周りは見える人が比較的多いので、ある程度の生活はできますが、テレビを見たり本を読んだりはできません。網膜が傷んでしまったら元に戻りませんからね。
注射による治療は、その時の状態をキープする、という事ですか?
かなり網膜、視細胞、細胞が傷んでしまった場合はそうなりますね。
白内障などは水晶体、レンズの異常であって、別に神経の異常ではないので、手術で透明なレンズに換えればまた見えるわけですが、神経や網膜は元に戻らないので、病状が軽いうちに受診されて早期に治療を開始されて、という事になるんですね。
そして、治療を開始された時よりも悪くならないように維持していくという対症療法で、今の医療ではよくする事はできません。
早く受診しないとダメですね
眼底の疾患や網膜の病気などは、ある程度症状が固まってしまうと治療しても元に戻らないとか、役に立つような視力に戻らないという事になりますので、症状が出たら早めに眼科を受診されるのがいいと思いますね。
歪んで見えるという症状は色々な病気の可能性がありますので、眼科で詳しく検査を受けられて、病気だったらきちんと治療を受けられるのがいいと思います。
早期発見のためにできる事はありますか?
目が両方ちゃんと見えているかどうか、毎日チェックするのがいいですよね。そうすればどっち側の目が悪いというのが分かりますからね。
歪んで見えるかどうかはアムスラーチャートというものでチェックする事ができます。
両目で見ると、片方の目が良かったら歪んで見えないので、片目ずつ検査してみてください。
約30cm離れ、片目を隠して中心の黒い点を見つめる。
線が歪んで見えるなどの違和感があれば眼科医に相談を。
目は小さなものと感じがちですが、多くの部位があって様々な役割を果たしているのですね
目の中にも部位によって色々な病気があって、たくさんの人が加齢とともに目の病気になるという事ですね。白内障はもれなく皆さんなりますし、緑内障も40歳以上の20人に1人と言われていますから、かなり頻度が高く、歳をとってくるともっと頻度が上がってきますからね。年齢と共に体全体が弱ってきますが、視神経や網膜もだんだん弱りやすくなるんですね。
老眼程度でショックを受けていたらダメなんですね
老眼は歳をとればもう皆さんがなります。40〜45歳になるとだんだん近くが見えにくくなりますからね。でもそれは仕方ないです、受け入れていくしかないですね。老眼なんかは不便だけれど眼鏡をかければ見えるわけですから。でも網膜や神経をやられた方は、もう眼鏡をかけても見えないので。
最後に、先生が診療で心がけておられる事を教えていただけますか?
基本的には画像診断をして、ちゃんと患者さんに「ここが悪いんですよ」と説明して、病気を理解してもらっています。患者さんにどこが悪いか知ってもらって、その病気がどんなものか理解してもらうのが一番大切かなと思います。
特に加齢黄斑変性などは高齢者に多い病気ですから、患者さんに認知症があったりもしますので、ご理解いただけない場合は家族の人に一緒に来てもらって、家族の人に聞いてもらって、家族の人に理解してもらう事が多いですね。
医師のプロフィール
溝手 秀秋 先生
●広島大学医学部 卒業
●広島大学医学部眼科 入局
●厚生連府中総合病院眼科 勤務
●県立広島病院眼科 勤務
●広島大学医学部眼科 勤務
●広島大学医学部眼科 助手
●国立福山病院眼科 医長
●広島大学医学部眼科 助手
●広島大学医学部眼科 助手講師
●みぞて眼科 院長
●吉島病院 登録医
●専門 眼科手術(網膜硝子体手術・白内障手術・緑内障手術)
‐資格・所属学会など‐
・日本眼科学会
・日本眼科手術学会
・日本網膜硝子体学会
・日本緑内障学会