(この記事は2015年9月29日時点の情報です)
西村 豊 先生(心療内科・精神科)
催眠療法で“気付き”のヒント/認知症カフェというコミュニティ
西原セントラルクリニック
【住所】広島市安佐南区西原8-33-3
【TEL】 082-871-1177
均てん化された医療では治療しきれない患者さんのために臨床催眠を取り入れた西村先生。
“催眠”と聞いて、どのようなことを思い浮かべますか?
コントロールされる?支配される?
それは誤解です。
今回のレポートは、2015年8月より心療内科・精神科を開設した安佐南区西原「西原セントラルクリニック」の西村 豊先生に、臨床催眠について話をお聞きしました。
また、認知症の患者さんやご家族同士が気軽に集ってコーヒーを飲みながら話をすることで悩みを乗り越え病気を受け入れていけるようにと開設された認知症カフェについても伺いました。
貴院では臨床催眠というものをされているとお聞きしましたが。
日本で“催眠”というと一般的にはテレビなどで「マスタードを食べても全然辛くない」とか「人が動けなくなる」とか「記憶をなくしてしまう」といったエンターテイメントのショーを連想されて“催眠=人を操るもの”というイメージをお持ちだと思います。
我々医療で催眠を使う場合は「催眠にかける」ではなく「催眠に導入する」などという言い方をします。
精神分析の創始者であるフロイトが当初、催眠を使って治療をしていくうちに無意識というものがあることを体系化していくのですが、フロイト自身の催眠は権威的過ぎて、クライアントに受け入れられないため治療がなかなかうまくいかなったと言われています。結局、彼が催眠を捨ててしまうことで精神分析が生まれていくという皮肉な結果になりますが、精神分析が精神医学の主流になると催眠も世の中から忘れ去られていくことになります。
そんなとき、1900年代前半〜70年代にかけて、アメリカで催眠によってさまざまな精神疾患を短期間で治していたミルトン・エリクソンという人が現れます。彼は催眠をコミュニケーションのツールとして使い、さまざまな技法を開発し、催眠がさまざまな疾患を治療するのに有効なものであることを証明してくれた人です。彼の催眠療法は“エリクソン催眠”と呼ばれ、家族療法やブリーフセラピー(短期療法)、NLP(神経言語プログラミング)など現在使われている心理療法の礎にもなっています。
日本でも、ネットで検索すると数えきれないほどのサイトにヒットしますが、ショー催眠のイメージが強すぎたり、催眠を医科大学で医学教育として取り入れているところは皆無とあって、臨床催眠そのものを医療機関で受けることは難しいのが現状です。
催眠療法によって、どのようなことが期待できますか?
僕が経験した症例なのですが、ある患者さんが「ごはんが食べられない」ということで来られました。
その方はずっとごはんが口から食べられないのですが、耳鼻科などでいろんな検査をしても嚥下に異常はない。でも食べられない。そのためにどんどん痩せていくので、このままでは中心静脈栄養という、外から大きい血管に注射して人工的に栄養をとらないといけないような状態になっていました。
でも、その前に心の病というか、いろいろな悩みのせいで食べられないのではないかということで催眠療法を導入させてもらったんです。
すると、自分の中で受け入れられない、飲み込めないストレスがあって、それを解放してあげることで飲み込めるようになりました。その方は、物事やストレスなどを受け入れて飲み込むことができないために、食べ物も飲み込めなくなっていたんです。
その方はご自身のストレスに気付いていらっしゃらなかったのですか?
ご本人はそういう事態を飲み込まなければいけないのは心のどこかでわかっているけども、一方で飲み込みたくないという、受け入れられない思いがそこにあったわけです。
その“受け入れたくない部分”に催眠を活用して、その人と一緒にセッション(施術)する中で「受け入れられないと思っている自分がいる」ということに気付いてもらうだけで、その日からごはんを食べられるようになったという劇的な症例を経験して、催眠療法はすごいなと、利用するようになりました。
セッションはどのように行われるのですか?
横になってリラクゼーションをするものもあるし、座って目を開けた状態から催眠に導入することもできるし、いろんなパターンがあります。
催眠は“眠りを催す”と書きますが、「睡眠」とはちょっと違うんですよね。
催眠状態というのは眠っているように見えても実は起きている状態で、睡眠と覚醒のちょうど中間くらいの、少しボーッとした状態です。
1回のセッション時間はどれくらいですか?
30分〜1時間くらいかかりますね。普通の外来と違って、少し特殊な治療になりますので、完全予約で催眠だけをやる日を作っています。
催眠療法に有効な患者さんと、そうでない患者さんというのはありますか?
有効なのは症状でいうと、不安障害や適応障害などのいわゆる神経症レベルですね。
使える病気と使えない病気があって、幻覚妄想がバリバリの方や認知症の方などには使えないので、こちらがきちんと適応を見極める必要があります。
あとは患者さん自身がやりたいかどうか、です。
催眠は無理矢理かけるものではなく、結局はコミュニケーションなので、お互いの信頼関係ができて初めて行うことができます。ですから、患者さんと何をどう治療していくのか、どんなふうなやり方を取るのか、をしっかり話し合ってから、やります。
セッションまでのプロセスが大事なのですね。
そうですね。いきなり来て「やりましょう」というのは難しいです。
その人が今どんな病気で、何に困っていて、どういう状況なのかが分からないと、良いセッションはできません。
前述のミルトン・エリクソンは“ユーティライゼーション”というものを提唱していますが、それは何かというと“その人が持っているものを最大限に活用する”ということです。
ですから普段の診察の中で僕は雑談しながらその人の趣味や生活スタイルなど、その人が持っているいろんな能力や経験を聞いて、その人の持っているいいところ、ちょっとくせがあるところなどを引き出していきます。つまり、その人の持っている能力をどういう風にしたら生かせるかを把握するんです。欠点も視方を替えると能力になります。
催眠、あるいは催眠的なコミュニケーションを使いながら、その人の中のリソース(資源)を引き出していくということですね。
1回のセッションで劇的に良くなるものですか?
そういう人もいますが、たとえて言うなら1回のセッションは傷ついた心を修復する金メッキのようなものです。
薄いメッキだとすぐ剥げてしまいますが、何回もやっていくと厚い膜になって剥げなくなって、傷をしっかりと塞いでくれるんです。
1回やってもすぐ剥げてしまう人は何回もやらないといけないし、傷が大きかったり何回やっても剥がれてしまう人は1〜2年かけて何回も繰り返しやります。逆に、1回でしっかりとした心の膜ができて劇的に良くなる人もいるし、個人差があります。
いま注目されている認知行動療法とはどう違うのですか?
一応、厚生労働省の認知行動療法のスーパーバイズ研修を修了しているので、ある程度、認知行動療法もわかっているつもりではいます。認知行動療法はご自身の「治そう」というモチベーションが強い人は非常によい適用になります。たとえば認知行動療法では必ずホームワーク(宿題)を出します。その宿題を頑張ってやろうというモチベーションが高い人は宿題をよくやってくるので、宿題の中からいろんな気付きをたくさん得る事で良くなっていきます。
でも、そういうモチベーションが乏しかったり弱かったり、自分自身で乗り越えるのが難しい状態の人は認知行動療法を無理矢理やろうとしてもうまくいかないことが多いので、催眠を使ったりします。
催眠を取り入れた場合、服薬の必要はなくなりますか?
「薬をやめたい」という患者さんは多いと思いますが、薬を飲むことで症状がしっかりと良くなる人も多いです。そういう人に対しては、薬を出さなかったり薬をやめてしまうことで良くなる機会を奪うことだってあります。だから、しっかり薬を使わなければいけない時には使うし、使わない方がいい時は使いません。
薬を使いながら催眠する人もいますが、精神状態が良くなると薬の量が減ってくるんです。だから最初は薬をしっかり出していても、そういう治療法を併用していくとだんだん薬の量が減ってくることも多いです。
完全にやめられるかどうかは別ですが、そういう傾向にはあります。
セッションの中では患者さんの心にどのようなことが起きているのでしょうか?
心の病気になると心の視野が狭くなります。病気になってしまうと全体が見えなくなって、部分的にしか見えなくなってしまうんです。
たとえば、うつだったら「自分はダメだ」とか、不安障害だったら「自分にはできるのだろうか」などと、客観的にみたらそんなことはないのに、視野が狭くなっているんです。よく「催眠を受けたら操られるんじゃないか」などという風に言われるのですが、それはまったく逆で、催眠をすることで狭くなっていた視野がとても広くなって「あぁ、自分ってこんな風に悩んでいたけど、こんな考え方もあったのか」という風に、周りの状況がよく見えるようになります。
支配されたり、コントロールされるのではなく、催眠というものを通じて、世界が広がって本来の自分らしさを取り戻すことができるのが魅力の一つですかね。
催眠を受けることで、なぜ視野が広くなるのですか?
催眠状態の中で気付きを与えられることによって、いろんな状況を把握する能力が高くなるんです。
たとえば普段、「自分はダメだ」と思っている人に「大丈夫ですよ」と言っても「なんで大丈夫なんだ。自分はこんなにもダメなのに」という抵抗が生まれるのでこちらの声が届かないことが多いのです。ところが、催眠状態になるといったん現実吟味の低下という状態が起きて「自分はダメだ」と思っている状況がちょっと緩むんですよ。そういう時に僕が「こういう考え方もありますよね」とか「こういう風にするというのはどうですか」というような提案をしたり、例え話をしたりして、いろんな気付きやヒントを提示すると、患者さん自身が「あ、こういう風に考えたらいいんだな」という風に自分から気付いていくことが可能になります。
だから“医療者が治す”というより“いろんなことに気付いてもらうことで、自分自身で勝手に良くなっていく”というのが正確かもしれません。
催眠療法は日本ではまだまだ特殊な治療法なのですね。
エビデンスといって、それが効く根拠ということは科学的には大事なことで、それがあるからこそ、どこの医療機関にかかっても一定水準の医療を受けることができます。均てん化(全国どこでも標準的な専門医療を受けられるよう医療技術等の格差の是正を図ること)することはとても重要なことです。ただ、そこはもろ刃の剣で、誰がやっても同じ治療になると、どこに行っても治らない人が出てくることになります。精神科の病院・クリニックはいっぱいあるので、同じ治療なら近くのところに行った方が便利だし、合理的です。
そう言う意味では、私の治療は、ちょっと変わっているかもしれません。けれど、変わったことをするところだからこそ、それだけ選択肢が広がるのではないでしょうか。そこに、存在価値が出てくればいいかなと思っています。
ちなみに臨床催眠については、フェイスブックの中で、また詳しくお知らせする予定です。ただし、完全予約ですので、予約が埋まっていたらすみません。
この中待合スペースは「認知症カフェ」という患者さんやご家族の交流の場としても開放される。
先生は認知症にも力を入れていらっしゃるとか?
好縁会グループは、認知症の方を医療と介護で支えていくというのがコンセプトですので、そのお手伝いもしています。超高齢化社会を迎え、認知症はこれからたくさん増えていくので、認知症に関してもしっかりと地域を支える存在でありたいと思い、認知症カフェもやる予定です。
ご自身の物忘れが気になるけど、受診は嫌だけど、カフェでお茶を飲みながら話を聞いてもらいたい。あるいは、「家族の人に物忘れがあるんだけど、本人はそんなのないって言って来ないんです」といった形でご家族が相談しに来られても大丈夫です。
認知症カフェはお茶やコーヒーを飲みながら、認知症の方を世話をしている方がつらい気持ちを吐き出す場でもあるので、認知症に関わる人が気軽に集まれる場所として来ていただければと思います。
こちらのクリニックの患者さんでなくても認知症カフェを利用していいのですか?
どなたが来られても構わないですよ。患者さん同士やご家族同士が悩みやつらさをお互い自由に話せるコミュニティの場として交流していただきたいですね。
《認知症サロン ユニバーサル・カフェ「山水」》
【日時】毎月第3水曜日13:00〜16:30
【場所】西原セントラルクリニック心療内科・精神科待合室(建物入ってすぐ右)
医師のプロフィール
西村 豊先生
●近畿大学医学部卒業
●広島鉄道病院 内科
●国立柳井病院 内科
●庄原同仁病院 漢方内科
●やちよクリニック 心療内科
●草津病院 精神科
‐資格・所属学会‐
・精神科専門医
・精神保健指定医
・日本精神神経学会
・日本臨床催眠学会
西原セントラルクリニックの詳細
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