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職域におけるがん教育の重要性について、東京大学医学部附属病院放射線科准教授・がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長の中川恵一氏のお話をまとめました。 | 病気や症状。治療や予防に役立つ 病院・医院・クリニック情報サイト『広島ドクターズ』
(この記事は2017年12月1日時点の情報です)

職域におけるがん教育の重要性

東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授
がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長
中川恵一 氏

はじめに

これから職場でがんが増える、また、職場でがんの事を知らなければいけない、そういう時代になってまいりました。
がん登録(がんの罹患情報のデータベース化)が先進国の中で最も遅れてきた日本でも、がん登録推進法(がん登録等の推進に関する法律)が定められ2016年から、がんの罹患情報はすべて47都道府県に集められ、最終的に国が管理するようになりました。これは個人情報保護法の枠外にあり、「同意しない」という事はできません。
2012年のデータはそれ以前なので必ずしも正確であるとはいえませんが、生涯で何らかのがんにかかる確率は男性63%、女性47%。仮にこの数字のまま上がっていくならば、今や男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになるという時代で、大きなリスクです。
日本人は世界一高齢化し、肉体的に若くなっているため長く働けます。「長く働く」→「働く人にがんが増える」という構図となり、会社の中にがんの人も増えてきます。
がんという病気は、わずかな知識の差で大きく運命が変わってしまいます。
基本的には治るか亡くなるか、という病気ですから、ならないのが1番いいですし、なったとしても早期に見つけて、仕事にもお金にもできるだけ影響を与えない形で治す事が大切です。
がんについて多くの方に知っていただく事は、がん治療と同じくらい、場合によってはそれ以上に大事だと思っています。
がんは運の要素もあると思いますが、いわゆる生活習慣によって大きくリスクは減らせるし、早期発見すれば95%近く治ります。
なんとなく運命的に受け身に思われている病気ですが、そうではないという意識を持っていただきたいと思います。 

がんって遺伝?

家族性腫瘍と言いますが、遺伝的な要素は5%あります。
乳がん87%、卵巣がん50%という高い確率でがんになると言われたアンジェリーナ・ジョリーは、健康なのに予防的に乳腺と卵巣を摘出しました。これは「乳腺や卵巣がなければそれらのがんはできない」という考え方です。
彼女の場合は、お母さんから受け継いで、卵巣がん・乳がんをできにくくする遺伝子BRCA1(breast cancer susceptibility gene I、乳がん感受性遺伝子I)が壊れていたという事です。自転車でいうと、買ったばかりの自転車の後輪のブレーキが壊れている状態です。
後輪のブレーキが壊れた自転車は、運転はできても前輪のブレーキに負担がかかるので、普通の自転車より早く壊れやすくなります。
同じように「若くしてなる」というのが遺伝的な要因で発がんする家族性腫瘍の1つの特徴ですから「うちはお姉さんもお母さんも叔母さんも20代〜30代で乳がん・卵巣がんになった」という方は、少し心配しなければ…という事になりますし、遺伝的な素因は子供さんにも引き継がれていきます。女性に比べると100分の1くらいですが「男性乳がん」というものもあり、男の子に引き継がれる事もあります。
ただし、5%以下ですから過剰な心配は要りません。
「うちはお父さんもお母さんも70〜80歳でがんになった」というのは決して珍しくありません。男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになるわけですから、極端に言えば3家族に1家族くらいは、両親共にがんという事は有り得ます。 

がんになる前にがんを知り、適切な治療を

最近だと30代で小林麻央さんが乳がんを発症されました。検査でBRCA1に変異はなかったとブログに書いておられますが、原因となる遺伝子は他にもありますから「遺伝的な要因ではない」とは言い切れません。
乳がんは5年後も再発するという特徴がありますが、乳がん全体の5年生存率(5年後に生きている確率)は早期から末期まで含めて92%、早期がんは100%です。
そんな中で3年足らずの闘病で命を落とされたのは、とても残念です。
報道などによると、気功、ハーブ療法などをなさっていたようですが、標準治療を受ける事はとても重要です。「標準治療」という言葉もあまり語感がよくないのかもしれませんが、標準=並・普通、というわけではありませんし「胸にはメスを入れさせない」という気持ちもあったかもしれませんが、それでは治らないんですね。
2017年夏に出たエール大学のデータによると、民間療法を選んだ方は死亡率が2.5倍、乳がんで民間療法を選んだ場合は6倍以上です。
アップル社創業者のスティーブ・ジョブズさんは、膵臓がんで56歳で亡くなりました。
膵臓がんはがんの中でも最も手ごわく、本当に治った方は私も数名しか知りませんが、彼のがんは神経内分泌腫瘍という、膵臓がんの中ではかなり良性に近いタイプの腫瘍なので、手術すればおそらく今も生きていました。
自伝によると、手術をしたくなかった。そこで何をやったかというと、ハーブ療法、気功、禅、絶対菜食療法。
医者が患者さんに押し付けるのはいけませんが、がんの場合、治療法を失敗すると命を落とす事につながります。
小林麻央さんのブログは私もフォローしていました。若い体の症状の変化、心の揺れ、不安。
がんで亡くなるというのはこういう事なのだというのを可視化してくれた非常に稀有な例で大変参考になりますが、ある日こんな事を綴っておられました。
「私も後悔していること、あります。あのとき、もっと自分の身体を大切にすればよかった。あのとき、もう一つの病院に行けばよかった。あのとき、信じなければよかった。あのとき...、あのとき...」
要するに後悔されているのですが、初回治療で失敗しないためには、がんになる前に、がんの事を知っておかないといけない。ルールや相手を知った上で最初の戦いに臨む事がとても大事です。

がんと告知されたら、まずは心が平静になるのを待つ

日本は外国のように死について話をする事があまりない上、昔と違って8割以上が病院で亡くなるため死が見えにくく、死について考える機会がなくなっています。そんな中、がんと診断されると1年以内の自殺率が20倍になるというデータがあります。スウェーデンのデータでは1週間以内の自殺率が13倍。がんになると、やはり平静ではいられません。
しかし、2017年8月に出た、がんセンターのデータで、がん全体の5年生存率は65%です。
乳がんや肝臓がんのように再発するものもありますが、多くのがんは5年以降再発する事が非常に少ないので5年生存率は三分の二近くと言っていいのですが、早期がんであれば95%が治りますし10年20年後の再発はまずありません。
私が医者になった頃、告知率はゼロでしたが、患者さんやご家族と医療者がきちんと情報を共有しなければチームとして戦う事はできないので、今はほぼ100%告知します。
がんと告知されて2週間くらいは非常に大きなストレスになり、そのままうつ病や適応障害になられる方も珍しくありませんが、多くの方は1週間〜2ヶ月くらいでかなり平常になってきます。
それでも、診断から2週間の間に大きな決断をしてしまう事があります。一番悪いのは命を落とす事ですが、仕事を辞めてしまうタイミングも告知直後が多いです。
正常な判断ができなくなっているこの時期に「辞めたい」と言われても「まぁともかく少し待とうよ。いろいろ平静になってから考えよう」という風に言っていただきたいと思います。

魚・肉の焦げや紫外線は気にしなくていい?

日本は世界一長生きで、世界一がんが多い国ですが、これまでがん教育は一切と言っていいほど行われてきませんでした。
内閣府が定期的に行っているがん対策に関する世論調査で、2009年に「がんを予防するために、日々の暮らしの中で何を実践していますか?」という質問をしたところ、回答のトップは「焦げた部分を避ける」「焼肉や焼き魚の焦げを食べない」。
これは誰に習ったんでしょうか?
調べてみると、昭和51年10月4日、読売新聞朝刊に行きあたりました。
「アジ、イワシなどの魚をじか火で焼き、表面の焦げた部分を集めて細菌に与えたところ、突然変異を起こした細菌の頻度が高かった」。
これはバクテリアを使った実験で、大腸菌に焦げた魚を加えたら突然変異が起きたというものです。がんが起きたわけではありません。
一説には、これで発がんするには体重60キロの人が毎日100トンの魚の焦げを食べ続ける量に相当するとの事ですが、人についての疫学上、焦げを食べている人にがんが多いというデータはありません。
つまり量を知る事が大事で、嘘じゃないかもしれないけれど実際には関係ありません。
あるいは「日の光に当たりすぎないよう心掛ける」。
これは紫外線で皮膚がんになる、という事ですが、日本人には関係ありません。
紫外線の少ないイギリスや北欧などで進化してきた方たちが紫外線の多いオーストラリアで暮らしたら皮膚がんが増えたので、オーストラリアのがん教育の中で紫外線対策は必要でした。
しかし、ずっとこの島で生きてきた日本人に、紫外線で皮膚がんが増える事はまずありません。むしろ、皮膚に紫外線を当ててビタミンDを活性化させた方がよいくらいで、これは骨を強くすると同時にがんを防ぐ効果もあるとされています。
日本で一番、年齢調整がん死亡率が高いのは青森、次は北海道です。もちろん日照時間が短いという事だけではありませんが、北国にがんが多いというのもまた事実です。
正しい知識を知らない事で、日本人は損している気がします。

先進国で、がん死亡率が増えているのは日本だけ

毎年約37万人ががんで亡くなっています。
戦前戦中、日本人の死因といえば結核でしたが、大きく変わりました。
これはストレプトマイシンのような抗生物質の普及もありますが、栄養状態の改善により免疫力が高まって、結核菌に対する抵抗力が高まったからです。
脳卒中についても、戦後1981年までは死因トップでしたが、お肉などの動物性たんぱくを十分に摂る事によって日本人の血管が強くなったわけです。
日本の若い女性などがマクロビオティックの食事をとったり、がんと告知された途端ベジタリアンになる女性患者さんも多いですが、がん予防という点でも、がんになっても、再発を防ぐ意味でも、様々なものをバランスよくとる事が大事です。
このように結核や脳卒中は国が豊かになる中で克服されていきましたが、がんだけは増え続け、毎年101万人ががんになり、その三分の一近くは働く世代です。
日米人口10万人あたりのがん死亡数を比較すると、日本では年々増え続けて、アメリカでは年々減り続けています。人口構成として日本の方が高齢化しているというのはありますが、イタリア、イギリスといった日本に近い状態の国でも、がん死亡数は全体で減っており、先進国の中でがんで亡くなる方が増えているのは日本だけ、しかも結構な差です。これは2004年のデータですから、今はどれだけ離れているか。
日本人はアメリカ人より6割も多くがんで死んでいて、そのうち2倍になる可能性もある。これは本当に大きな差です。
今、日本で一番罹患数の多いがんは大腸がんになってきています。
女性で一番多いのは乳がん、男性で一番多いのは前立腺がんですが、それを除くと大腸がんという事になります。
昔は胃がんでした。胃がんは原因の95%以上がヘリコバクター・ピロリ菌の感染ですが、この感染率は冷蔵庫の普及によってどんどん減っており、今は日本人全体の4〜5割。60歳以上でいうと7〜8割、若い世代は非常に少なく、ピロリ菌の感染が減れば当然胃がんも減るわけです。
また、肝臓がんの死亡率は10年で半分になりました。原因の9割くらいはC型・B型の肝炎ウィルスで、ほとんど輸血の血液からうつっているため、輸血の血液から肝炎ウィルスを除去する事で肝臓がんは減りました。
というわけで大腸がんが一番多くなっているのですが、大腸がんで命を落としている人の数、日本とアメリカでどっちが多いと思いますか?日本ですよ。人口10万人あたりじゃなく、総数で、です。アメリカの方が日本の2.6倍くらい人口が多いのに、日本なんです。
もちろん先ほど言ったように人口構成の違いはありますが、日本とアメリカで大腸がんで死んでいる人の数がほとんど等しいどころか日本の方が多いだなんて、そんな事があっていいわけないです。

がん細胞は健康な人の体の中にもある

我々の体は大体37兆くらいの細胞で作られていますが、日々1%くらいが死んでいきます。
それを補うために細胞分裂をするのですが、その時に遺伝子が非常に不安定になって、細胞が死ななくなる(がん細胞化する)という現象が起こります。
しかし基本的にそれはいつも起こる事で、我々の体の中にも今、がん細胞があるのですが、免疫細胞がその都度、できたてのがん細胞を殺しにかかっています。免疫力はがん予防という面でも大変重要です。
ただ、免疫にとってがん細胞は非常に厄介です。というのは、免疫細胞は有害なもの(自分ではないもの、異物)を殺しているわけですが、がん細胞は元々は自分の細胞なので、どうしても取り逃す事があります。
私が2万6千人の患者さんを診てきた中で、風邪やインフルエンザをうつされた事はありますが、がんはうつされません。私の細胞からみると、患者さんのがん細胞は明らかに赤の他人だからです。つまり、がん細胞が増殖できるのはその人の体の中だけです。
そして、がん患者さんがなぜ命を落とすのか。炎症など他にもいろいろありますが、ざっくり言えば栄養失調です。
がん細胞はエネルギー代謝の効率がとても悪く、普通の細胞の十八分の一くらいです。そのため、がん細胞は本来正常な体を養うための栄養をどんどん使って分裂していきます。
がん患者さんの体は痩せていき、栄養失調になって命を落とすのですが、そうなるとがん細胞も共倒れで、どこか別のところに新天地を見つける事はできません。
これは、資源をどんどん使って、どんどん環境が悪くなって…という、地球と人間の関係に似ていますね。

老化とがん

がんは遺伝子に傷がつく経年劣化です。
57歳の遺伝子は57年分の経年劣化をしていますから、がん細胞がいろんなところに見つかったり、免疫力が衰えるといった二重の意味で、老化がある事になります。
たった一つ見過ごされたがん細胞が1センチになるまでには20年くらいかかります。
つまりがんは、長生きしないとなれないという事です。
今の平均寿命は女性が87歳、男性が81歳。明治元年の日本人の平均寿命が35歳くらいで、大正元年は40代ですから、日本人は急激に長生きになりました。
急激に長生きになれば急激にがんが増えます。今は男性の3人に2人ががんになりますが、仮に日本人の平均寿命がもっと延びれば、どんどん上がっていきますよ。
日本は一生のうちに働く期間も世界で一番長くなっていて、今、総就労人口における高齢者(65歳以上)の割合は12%くらいです。ドイツは2%、フランスは1%ですが、これらの国々は移民を入れる事で高齢者が働かない社会になっています。洋の東西を問わず、社会が成熟すれば少子化になって若者が減りますが、欧米でそれを補っているのが移民です。移民を入れていない日本は一億総活躍社会、死ぬまで働く社会です。
日本老年学会が高齢者の定義を75歳以上にしようと提言しているように日本人が以前より若くなっているのは事実で、例えば同じ54歳でも磯野波平と島耕作を比べてみれば分かります。48歳のフネさんと70歳の島耕作を比べても島耕作の方が若く見えるくらいです。
つまり20〜30年前の日本人はバランスの良い食事をとって体を動かしていた、非常によいライフスタイルだったんですね。
しかし、みんなが働き続ける65歳までにがんになるリスクは男女問わず15%ですから、会社員の7人に1人がなるという事で、つまり体がいくら若くてもがんのリスクは経年劣化、生きた年数。それががん社会なのです。

老化以外のがんリスク

女性の場合、老化以外のファクターがとても多く、それは乳がんと卵巣がんに現れますが、30代のがん患者さんは男性の3倍近く。54歳までの若い世代は女性の方が多いです。
大腸がん、胃がん、肺がんと違い、乳がんが一番多いのは40代後半です。
乳がんを増やす要因は老化よりも女性ホルモンです。
簡単に言うと、女性ホルモンが出なくなる閉経を迎える直前がピークとなります。
実は、日本のがんの中で乳がんが一番増加率が激しいのですが、その大きな要因は少子化です。子どもを産まない人は乳がんになりやすいです。
1人妊娠・出産・授乳すると2年以上生理が止まります。昔のお母さんは5人10人、仮に10人子どもを産むと20年以上生理が止まります。
一方、今はお子さんを持たない女性も多くなって、さらに栄養状態もよいので、初潮開始年齢が早く、閉経が遅い。つまり、長い間ずっと生理がある事が乳がんの最大の要因で、47都道府県の中で一番乳がん患者が多いのは出生率が一番低い東京です。
また、子宮頸がんのピークは早期のものまで含めると30代前半、上皮がんを除いた浸潤がんだけでも30代後半です。
子宮頸がんになる原因の100%が、性交渉に伴うヒトパピローマウィルスの感染です。
昔は婚前交渉なんて言いましたが、いつの間にか付き合う=セックスになり、日本は先進国の中でも性が解放されていると思います。その結果、若い世代の子宮頸がんが増加している。このヒトパピローマウィルスは男性にはあまり悪さをしませんが、子宮頸部に取り着くと、リスクとしてはわずか0.1%ぐらいですが子宮頸がんにつながります。
また、今、中咽頭がんも増えています。昔はたばこが原因でしたが、今はオーラルセックスの影響もあります。
このように、社会と共にがんも変わってきます。
つまり女性が働けば、若いがん患者が会社に増える。また、以前は定年退職後にがんと診断されたような年齢の方たちが、定年の延長によって働いている間にがんと診断される。この影響はとても大きいと思います。

たばことお酒

たばこのパッケージの裏に警告文がありますが、そこには「肺がん」の原因としか書いていないのでヘビースモーカーの方などは肺がん検診ばかりされます。
確かに肺がんは、たばこを吸わない人より吸う人の方が4.5倍多いのですが、喉頭がんは32.5倍ですし、ほとんどすべてのがんを誘発します。肺から入った発がん物質が血液の中に溶けて全身にめぐるのですから当然です。つまり「肺がん」じゃなく「がん」の原因なんです。
お酒もほとんどのがんを出します。百薬の長というのは残念ながら一合。呼び水程度で、それを超えるとがんが増えます。
しかし、お酒はたばこと違い、間接喫煙がありません。たばこを吸う人が吐く息から発がん物質が出るわけですから、ベランダで吸えばいいという問題じゃないんですよね。
お酒に関しては、飲んでも赤くならない人はあまりがんになりません。
赤くなって3合以上飲む方は決して珍しくないですが、食道がんのリスクは10倍近くなります。赤くなっているのはアセトアルデヒドという発がん物質が体に溜まっている状態で、東洋人の約4割は、このアセトアルデヒドを分解する遺伝子が変異して分解できなくなっています。これは東洋人だけで白人や黒人にはありませんので、西洋社会ではお酒とがんはあまり関係ありません。
アメリカは東洋人が多いのでホームパーティなどでは東洋人にとても配慮しています。そのような配慮を日本の社会でも上手に取り入れる必要があるような気がします。
会社の中で、赤くなった人に「どんどん飲め飲め」はやめた方がいいという事です。

症状のない早期の段階でがんを見つければ体もお金も負担が軽い

私の義理の妹は48歳の時、大腸がんで命を落としました。6月に巨大な大腸がんが発見された時には既に転移があってもう治らない段階でしたが、その年のお正月は元気だったんです。
このように、がんは末期になっても症状を出しにくく、まして早期がんは絶対に症状が出ないので、絶好調であっても検査をしていただくしかありません。
義理の妹はアービタックス(セツキシマブ)という薬とアバスチン(ベバシズマブ)という薬を使っていて、医療費は月額60万円くらいでした。ただし自己負担は3〜4万円、残りは税金です。
今、本当に薬が高いです。私が医者になった頃、月々の医療費は数千円でしたが、それが数万円になり、数十万円になり、ついに数百万円になりました。
オプジーボ(ニボルマブ)が2017年の2月に半額になったというニュースがありましたが、それでも1730万円くらいで、高額療養制度が使えるので4ヶ月目から自己負担は4万円です。残りは社会保険であれば会社の組合や保険協会・組合など、国民保険であれば税金で負担する事になります。
新型がん免疫療法・キムリア(CAR-T細胞医療CTL019)が日本でも保険で認められるよう動いているようですが、これは1回の治療費が5200万円です。オプジーボも含め、このような薬は進行がんや末期がんで使うもので、早期がんであればこういう治療は一切要りません。したがって、早期で見つける事は国あるいは会社にとっても大きなメリットがあります。

正しく知って、できることをして、身を守る

義理の妹が4年半で命を落としたステージ4の大腸がんの5年生存率は17.5%です。
しかし1期であれば大腸がんの5年生存率は95.5%、大きく違います。この違いは、検便をしたか、しなかったか、です。
検便は非常に有効で、婦人科がん検診だけ受けて大腸がん検診は受けないというのは大変残念な話です。
また、欧米では6割くらいの方に放射線治療が行われますが、日本ではがん患者さんの29%しか放射線治療をしていません。
昔からテレビや映画では、がん治療は手術と決まっています。『白い巨塔』の田宮次郎や『ブラックジャック』『医龍』など、ずいぶんかっこいいですね。
私も「仕事しながら通院でがんが治った」という話の放射線治療のドラマを作りましたが、残念ながら受けませんでした。
放射線治療は大体1回1分で終わります。前立腺がんは5回、肺がんは4回で済みます。東京のある病院は夜10時まで放射線治療をやっているのでフルタイムで仕事していても治療できるのですが、こういう事を知らない日本人は非常に損しています。
乳がんに関しても、日本の女性は自己触診が足りないのではないかと思います。
「ルナルナ」という女性の生理関係のサイトで一緒にアンケートをした事があるのですが、日本の若い女性は1割しか自己触診をしていないというデータがありました。
もちろん検診は非常に重要ですが、検診だけが大事ではないと思っています。
がん検診受診率が低いのは、やはりがんという病気を知らないからで、がんが症状を出しにくい病気だと知れば、1センチから2センチの間に見つけるしかない。1センチから2センチになるには早いもので1年、乳がんや子宮頸がんは2年くらいです。
たった1つの乳がん細胞が1センチになるには大体30回分裂し、15年〜20年かかります。
そして1センチの乳がんの塊が2センチになるには3回の分裂で2年程度です。
つまりごく簡単に言うと、女性の一生の中で早期の乳がんを見つけられる時間は2年なんですね。
その2年がいつなのか分かっていれば楽ですが、人生のどこにくるかは分かりません。
だから2年に1回検診に行くしかないんですよね。それがマンモグラフィーの基本的な考え方だと私は思います。
がんの中には大体1〜2割、ものすごく足が速い相手、たちの悪い相手というのがあります。胃がんだったらスキルスがん、あるいは肺がんだったら小細胞がんなど。
これを見つける事はまずできません。交通事故や津波などと同じく一種の運で、残念ですが仕方ありません。
しかし、乳がんは自分で触れるのですから、できる事は全部するべきです。
たばこを吸わないとか、お酒を飲まないとか、体を動かすとか、太りすぎないとか。
糖尿病って実はとても怖いんです。膵臓がんや肝臓がんは2倍になりますし、がん全体で2割増えます。血糖値が上がるとインシュリンをたくさん出さないといけませんが、インシュリンは発がん物質です。
私は福島支援をしていて、月に1回は飯舘村に行っています。6000人の村民はずっと全村避難をしていました。一部、帰還困難区域には入れませんが2017年3月にほとんど解除になりました。
ところが放射線被曝が怖くて、村民の1割も帰らないんです。
では、帰るとどれくらい被曝するのか。年間2ミリシーベルトです。
CTスキャンが1回7ミリシーベルト。通常の生活でも自然被曝2ミリシーベルト、医療被曝4ミリシーベルトと、そもそものベースラインが6ミリシーベルトです。
ですから、あまり心配ないのですが「怖いといえば怖い」という事で彼らは狭い仮設などで暮らしています。
しかし、四畳半一間に全部物があって、コミュニティやご近所づきあいがなくなり引きこもってしまうので、非常に太るんです。
その結果、なんと6割が糖尿病でした。糖尿病の2割ががんになるという事は避難者の12%はがんになるわけです。糖尿病のリスクと被曝のリスクは全然比べものになりません。
これから10年もすると福島の避難者にがんが増えてくると思いますが、それは放射線被曝ではなく、放射線被曝からの避難が原因なわけで、リスクとなる相手を知らないといけないんですね。
「がん教育」と言うと堅い感じがしますが、私が言いたいのは、体に関心を持って、ある幅の中でご自身が一人一人の価値観に従って、できるだけ体を大切にしていただきたいという事です。
その中には検診も含まれています。不要な芽を摘んでいくために必要な行為であるという事を、これから日本人は考えていかないといけません。
企業においても経営層の方ががんの事を知っていればいるほど会社の中でのがん検診や就労支援が行われます。当たり前といえば当たり前ですが、様々な形で大人にがんの事を知ってもらう事で、この国民病を克服するしかありません。
がんのリスクは生活習慣が三分の二くらい占めるわけですから糖尿病はとても危険なのですが、がんに比べると軽く思われている。一方、がんの事は怖く思いすぎて過剰に心配されている。
がんだと言われただけで自殺率が24倍、あるいは3人に1人が会社を辞めるわけです。
辞職のタイミングの4割は治療前ですから、実際に治療を受けてみて『これはとても両立できない』というわけじゃなく『無理に決まってるだろう』と思い込んでしまっているんですよね。そういうところを少しずつ正していく必要があって、そのためには大人全体ががんを知る必要があります。
がんの事を考え、命について考える事は健康長寿につながります。
私はまだがんになった事はありませんが、がんという病気は人間を一段格上にします。
それまでは皆さん、ずっと生きているつもりなんです。でも実はそうではないと考えさせられると、一生懸命生きようとするんです。
私も東大病院の患者さんに死生観の調査をした事がありますが、やはり患者さん方は1日1日を大切に生きようと思っておられる。そういう方たちは絶対会社にプラスになりますから、がんでも辞めない辞めさせない事が大事です。

日本の学校でも行われ始めたがん教育

西洋社会は100年くらいかけて徐々に高齢化しましたが、日本は20〜30年であっという間に高齢化して、急速なスピードで世界一のがん大国になりました。
そのスピードがあまりにも速いため、システム・制度としての対策に遅れがある事は否定できません。
したがって、私はかねてから学校で教えるしかないと思い、全国で100ヵ所以上、主に中学校2年生にがんの授業をしてきましたが、これは本来私の仕事ではありません。
学校、特に中学・高校においては保健体育という教科があるわけですから、保健体育の先生のお仕事なのですが、たとえば東京東村山市の中学校では保健の授業を少なくとも2年余り行っていなかった事が明らかになった事がありました。
結局この学校では卒業生も含めて補習ですが、皆さんも保健の授業ってそうそうやったわけじゃないでしょう。雨が降る時にやるんです。私の時はそうでしたし、今の学生に聞いても同じです。雨が降らない県では、どうしても保健より体育になります。
しかし、2017年の4月から全国の小中高校生で、がん教育が始まり、学習指導要領にも「がんについても取り扱うものとする」という一文が入りました。この一文を入れるのは大変でした。前はエイズでしたが、学習指導要領に特定の病気の名前が入ったのは20年ぶりです。
こうなった以上は教えないといけませんが、保健の先生もあまり習ってこられませんでしたし、教育現場の先生方はとても忙しいですから、教えるにも負担があります。
ですから、映像教材やアニメなど、結構面白く分かりやすい教材を文部科学省のホームページから自由にダウンロードできるようになっています。インターネットで「文部科学省 がん教育」などと検索してみてください。

子どもたちはどのようながん教育を受けている?

正常な細胞の遺伝子が傷ついてがん細胞になり、20年という長い時間をかけて1センチになりますが、1センチになるまでの間、たとえば5ミリのがんなどは見つけられません。
本当はがんの種類ごとに厳密な定義があるのですが、簡単に言うと2センチくらいまでが早期がんです。
つまり1センチから2センチの間に見つける事が非常に重要なのですが、末期になっても症状を出さないがんが1〜2センチの間に症状を出す事はないので、完全に元気なうちから検査するしかありません。「絶好調!最高!」と思っていても、がんが進行している事は十分あります。
あるいは、固形がんというのは1期〜4期までに分類され、1期での5年生存率は95%、転移があるような4期だと、がん全体の8割くらいは5年生存率が2割に下がってしまう。
そして、受けていただくべき検診は、基本的には国が推奨している胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つ。20〜30代の子宮頸がんが急増しているため子宮頸がん検診は20歳からになっています。
多くの日本人は、がんの治療=手術だと思っていますが、欧米では放射線治療の方が行われています。放射線治療は通院で行う事ができ、身体への負担も非常に少ない。
そのような事を日本の子供たちは習っていきます。

では大人の学習はどうする?

子どもたちが習い始めると、大人たちもきちんと勉強しない限り、世代間に不公平が生じるわけですが、問題は大人の学習をどうするか、です。
私もよく市区・市町村などの自治体に呼ばれますが、大体は日曜の午後です。
普通は日曜の晴れた午後に、がんの話なんて聞きたくないですよ。
そこに来る人たちは、何度か行けば顔見知りになるほど決まっていますし、私の代わりに話せるんじゃないかというほど知っています。たばこを吸う人なんて1人もいませんし、検診は85歳になっても受けるでしょう。
そうではなく、なぜか「俺だけはがんにならない」と思っており、たばこを吸うも「がんが見つかると怖いから検診を受けない」などと言っている人に、聞きたくもないがんの話をどうやって聞いてもらうのか。
大人にとって、学校のように一種の強制力があってまだ楽なのは会社しかない。
ですから会社でがん教育をするしかないんです。
企業アクションは今2400社、従業員数にすると640万人。働く人の1割です。
出張講座も行い始めていますので、ぜひ、皆さんの周り、皆さんの県の会社に入ってもらいたいと思います。
がん治療の場合、臓器をとる、放射線治療、抗がん剤、それぞれマイナスはあるもののプラスが上回るから行うわけですが、この企業アクションに関してはそもそもマイナスが見当たりません。無料ですし、ニュースレターや小冊子ももらえるし、個別相談なんかもやっています。
職場でのがん教育をどのように行っていくのか。企業アクションが大きなミッションになる事は確かですので、これからみなさんとで充実させていきたいと思います。
幸い広島県はデーモン閣下を起用するなど非常にがんに対して積極的ですが、現在のところ企業アクションの参加企業数は岡山の半分なので、ぜひ岡山を超えていただきたいと思います。


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喉がイガイガする、圧迫感がある、引っ掛かったり、絡んだような感じがするなど
考えれば考えるほど、喉に違和感を抱き、そのストレスが引き金になって症状を引き起こすことも多いようです。


病名・症状・キーワードからお医者さんレポートを探す かかりつけ医は、「病気を治す」だけでなく、「病気を近づけない」ための強い味方。信頼できるかかりつけ医を見つけることは、大切な家族の健康を守る安心の第一歩なのです。 広島県では、県民一人ひとりががんをより身近なものとして捉え,がん検診の重要性についての意識が高まるよう、がん検診の普及啓発や受診率の向上に力を入れています。 広島ドクターズのサイト運営会社「株式会社和多利」は、広島県「がん検診へ行こうよ」推進会議会員に所属しており、広島ドクターズを通じて広島のがん検診受診率アップに貢献したいと考えています。



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 田中亮三 先生
(旭橋歯科クリニック)
 
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ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス 2回目 軽い)

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